第203章 第4章《ライン演習作戦・出撃》 10/15
― “霧中の遭遇戦/ビスマルク vs ノーフォーク・サフォーク” ―
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【91:午後7時37分・英重巡ノーフォーク ― “レーダーが捉えた怪物”】
レーダー手:
「距離、2万4千……縮小中!
速度……おそらく27ノット以上!
この速度は……ビスマルク!」
艦長プライド(即断):
「接触報告を本部へ飛ばせ!
コード“ALPHA-SIGHT”だ!」
副長:
「それは“敵主力艦視認”の最優先コードでは?」
艦長:
「あの反射波を見ろ。
あれが主力艦でなくて何だ。
世界最大の戦艦が、霧の中で我々の目の前にいる。
急げ!」
ノーフォークの通信士は
震える手でキーを叩いた。
通信士:
「……送信!
送信成功!!」
その電波は
霧の上を飛び、
英国北方艦隊司令部へ向かった。
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【92:英海軍本部 ― “衝撃の報告”】
参謀長:
「ノーフォークから“ALPHA-SIGHT”!
ビスマルク確定位置を送信!」
司令官:
「位置は!?」
参謀:
「北緯○○度、東経○○度!
向こうは北西へ進行!
速度は高い!」
司令官:
「フッドへ通達!
全速で北上させろ!
これは逃がしてはならん!!」
英国海軍の全てが、
霧の中にいる怪物めがけて動き出した。
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【93:午後7時40分・ビスマルク艦橋 ― “まだ見えない敵”】
航海長フェッツナー:
「天候の悪化で視界は30m以下……
霧の層が酷い……」
副長シュルツ:
「ここまで視界が死ぬと、
追跡は困難になるはず……」
艦長リンデマン:
「それは“目視の世界”の話だ。
英国はレーダーを持つ。
我々は“盲目の巨人”だ。」
艦橋の空気がわずかに緊張した。
艦長:
「この霧では遭遇距離は数百メートルだ。
巡洋艦とぶつかる可能性すらある。」
副長:
「衝突すれば……」
艦長:
「双方とも沈む。
巨艦の死はあまりに簡単だ。」
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【94:ビスマルク・見張り台 ― “白い闇”】
マスト最上部。
見張り員が必死に目を凝らすが――
何も見えない。
見張り員A:
「……クソッ……
本当に何も見えない……!」
見張り員B:
「音も風で消える……
こんな状態で遭遇戦になったら……」
白い闇が、
海と空と距離感を完全に奪っている。
そして――
その闇のすぐ向こうに
敵巡洋艦二隻が潜んでいることを
この時点で誰も知らなかった。
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【95:英重巡サフォーク艦橋 ― “霧中の緊迫”】
レーダー手:
「ノーフォークと同じ反射……!
こちらも捕捉!
距離2万6千、方位北東!」
艦長エリス:
「よし……
この霧は我々の盾だ。
奴らの火砲は目視頼り。
我々のレーダー射撃が通れば勝ちだ。」
副長:
「しかし距離が……
あと少し、近づかなければ……」
艦長:
「無理に接近するな。
ドイツ戦艦に捕捉されれば
一撃で消される。
むしろ“距離を保ちつつ位置を知らせる”のが任務だ。」
サフォークは
少しずつ、しかし確実に
ビスマルクの側面へ回り込んでいく。
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【96:午後8時02分・ビスマルク艦内 ― “探照灯の事故”】
そして――
最初の“偶発的事件”が起きた。
上部構造の点検をしていた整備兵が
探照灯のテスト回路に触れ、
スイッチが跳ね上がる。
整備兵:
「うわっ!? スイッチが……!」
――次の瞬間。
ビスマルク左舷の探照灯が
霧の中へ向けて突如として点灯した。
巨大な光の柱が
白い霧を裂くように伸びた。
見張り員A:
「探照灯!?
誰が点けた!!?」
艦橋:
「探照灯点灯!?
馬鹿か! 消せ、すぐ消せ!!」
整備兵:
「すみません!
誤作動です!!」
探照灯は
わずか5秒で消された。
だが――
その5秒間は致命的だった。
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【97:英重巡ノーフォーク ― “光の閃き”】
レーダー手:
「……!?
方位北北東、光!
探照灯らしき光を確認!!」
艦長プライド:
「あれは――
ドイツ戦艦の探照灯だ!!
奴らはそこにいる!」
副長:
「距離は依然として不明ですが……
方向は完全に特定できます!」
艦長:
「追跡開始だ!
奴らは“探照灯を点けた”――
状況を把握できていない証拠だ!!」
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【98:ビスマルク艦橋 ― “艦長の激怒”】
艦長リンデマンは
探照灯を点けた整備班に怒鳴った。
艦長:
「この天候で探照灯!?
敵が見ているかもしれんのだぞ!!」
整備兵:
「も、申し訳ありません……
点検作業中で……!」
副長シュルツ:
「艦長、恐れながら……
すぐに消したのなら、
位置までは特定されていない可能性も――」
艦長:
「いや、
あの5秒で充分すぎる。
我々は“見られた”。
そう考えて行動する。」
艦橋の空気が
激しく、重く沈んだ。
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【99:午後8時19分・英重巡サフォーク ― “接触報告の連続”】
サフォークもまた光を見ていた。
レーダー手:
「ノーフォークと同じ方向で光の反射!
大型艦、確定です!」
艦長エリス:
「全速で追尾コースへ!
そして位置を本部へ送り続けろ!」
副長:
「フッドとプリンス・オブ・ウェールズが
間に合う……!」
艦長:
「時間との勝負だ。
逃がすな。」
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【100:午後8時42分・ビスマルク艦橋 ― “霧中の交戦開始”】
航海長:
「艦長!!
左舷後方、霧の奥で何かの閃光!
爆炎か!?
砲火か!!?」
副長:
「英巡洋艦かもしれません!!」
艦長リンデマン:
「角度を維持しろ!
こちらはまだ敵を視認できていない!」
霧の向こうで
轟くような微かな音――
それは英国巡洋艦が
霧の中で撃った“試射”の音だった。
英巡洋艦が
ビスマルクの位置を
完全に把握した合図でもあった。
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【101:章末(10/15) ― “霧の中の最初の砲声”】
午後8時47分。
霧の向こうから
重巡洋艦の主砲と思しき
重く鈍い音が響いた。
“ゴウッ……!”
アーベント:
「……いまの音……
砲撃……?」
先輩兵:
「来たぞ……
英巡洋艦が見つけた!」
ビスマルクはまだ敵を視認できず、
敵は霧の中からレーダーで位置を掴む――
これが
史上最初の“レーダー vs 光学照準”の海戦
となる前兆だった。




