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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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3302/3562

第199章 第4章《ライン演習作戦・出撃》 6/15



6/15 ― “ノルウェー沿岸到達:そして最初の敵影” ―



【51:翌朝 午前4時11分・北海北域 ― “嵐明けの薄明かり”】


 夜明け前の北海は、

 嵐の眠りから醒めたばかりだった。


 空はまだ暗く、

 海は黒青色に揺れ、

 水平線の向こうには

 わずかに白い光が差していた。


 ビスマルクの船体には

 大粒の雨がまだ残り、

 甲板は夜露と潮で濡れて滑りやすい。


 アーベントは

 濡れたレインコートを握りながら

 空を見上げた。


(嵐が……抜けた……?)


 そう思った瞬間、

 甲板が静まり返っているのに気付いた。


 昨日までの重い波音が嘘のようだった。



【52:艦橋 ― “気象が変わった。敵も動き出す”】


 艦橋に入った航海長フェッツナーが

 計器を覗き込み、静かに言った。


航海長:


「風、弱まる。

雲層高度上昇。

視界が回復しています。」


副長シュルツ:


「嵐が止んだ……

ということは――」


艦長リンデマン:


「――英軍機が飛べるようになる。

隠密行動は“ここからが本番”だ。」


 艦橋の士官たちの背筋が

 わずかに硬直した。


 嵐は敵からの目を隠した。

 だが、同時に

 こちらの視界も奪っていた。


 今は違う。


“互いが互いを見つけうる”

危険な時間帯が始まった。



【53:プリンツ・オイゲン艦橋 ― “陽光が敵を運んでくる”】


 一方、後続艦プリンツ・オイゲンでも

 士官たちが早朝の空を見ていた。


若手士官:


「天候回復……

英軍機、来ますか?」


副長:


「来る。

間違いなく来る。

奴らは“観測で戦う海軍”だ。」


艦長:


「だが我々はノルウェー沿岸に近づいた。

山影と雲の下なら、

多少は隠れることができる。」


 艦長は地図を指でなぞる。


艦長:


「ここからは“地形との戦い”だ。

海戦でありながら、

陸の影に隠れて進む。」



【54:午前6時03分 ― ノルウェー沿岸が見える】


 前方の視界が開け、

 暗い海の向こうに

 巨大な山脈の黒い影が浮かんだ。


アーベント:


「山……?

こんなに近く?」


 彼の声は震えていた。


 だがそれは恐怖ではない。

 “異世界を見る驚き”に近かった。


先輩兵:


「ノルウェー沿岸だ。

我々は中立国の沿岸を

海底の陰のように進む。」


アーベント:


「なんでそんな近くを?」


先輩兵:


「英国の偵察網を抜けるためだ。

この海域なら

奴らの哨戒網は薄い。」


 ノルウェーの峻険な山々は、

 ビスマルクとプリンツ・オイゲンの

 “巨大な影”を隠す鎧となる。



【55:艦橋 ― “最も危険な時間帯”】


 航海長が地図を広げながら言った。


航海長:


「我々は現在、ノルウェー沿岸ルートへ入った。

だが今が最も危険です。」


副長:


「なぜだ。」


航海長:


「天候が回復し、

英軍が哨戒飛行を再開する。

その最初の偵察機が

“この海域を通る確率”が高い。」


艦長:


「つまり、

敵に見つかる可能性が最も高い時間帯だ。」


 艦橋の空気が重く沈んだ。



【56:対空監視班 ― “水平線を睨む目”】


 マスト上の見張りは

 双眼鏡越しに白んできた空を睨んでいた。


見張り員A:


「……まだ見えん。」


見張り員B:


「雲が切れた瞬間が危ない。

あいつらは“雲の裏側”から来る。」


 北海の対空見張りは

 生死に直結する。


 高度・高度差・雲形、

 すべてが敵機の接近を告げる兆候になる。



【57:午前7時14分 ― “最初の異音”】


 ビスマルクの通信室に

 ごく弱い“異音”が混じった。


通信士:


「……ん?

雑音に混ざって……パルスが……」


 通信長が即座に席へ移動した。


通信長:


「どの方角だ。」


通信士:


「方位300度。

周波数帯は……

航空機のIFF(識別信号)の残響かもしれません。」


副長:


「航空機……!」


艦長リンデマン:


「距離は?」


通信士:


「不明。

しかし……

近いです。

嵐が消えるまで

捕捉できなかった信号です。」


 艦橋が一気に静まり返った。



【58:プリンツ・オイゲン艦橋 ― “来るぞ”】


後方のプリンツ・オイゲンでも

同じ信号を微かに捉えていた。


副長:


「航空IFFの残滓……

これは……!」


艦長:


「英国偵察機だ。

しかもこの方向……

奴らは“ここを知っていた”可能性がある。」


 艦橋の士官が息を飲む。


参謀:


「ですが……

姿はまだ見えません。」


艦長:


「見える頃には手遅れだ。

見える前に“見つけられるか”が勝負だ。」



【59:見張り台 ― “白い点”】


 午前7時32分。


 マスト頂部の見張り員が

 双眼鏡を覗いたまま固まった。


見張り員:


「…………」


下の見張り員:


「どうした!?」


見張り員:


「……白い点がある。」


下の見張り員:


「どこだ!」


見張り員:


「雲の切れ目――

方位295度、距離……不明!

高度は低い!

速度速い!」


 艦橋へ一瞬で情報が伝わる。


艦橋見張り将校:


「敵機らしき物体、視認!」


艦長:


「双眼鏡を貸せ。」


 リンデマン艦長は

 わずか3秒間だけ目を凝らした。


次の瞬間、

低く、しかし明確に言った。


「英国空軍機だ。」



【60:章末(6/15) ― “ビスマルク、ついに発見される”】


 艦内の空気が

 金属のように冷たく変わった。


副長:


「英軍機が……!

しかしまだ距離は……!」


艦長:


「もう遅い。

あれは我々を見ている。」


 空の白い点は

 わずか数秒後、

 太陽光を反射し――


確かにこちらへ向けて旋回した。


艦長リンデマン:


「――発見された。」


 北海の空が

 冷たく、静かに、

 戦争の幕を開けた。


 


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