第193章 第4章《ライン演習作戦・出撃》 2/15
2/15 ― “運河を抜ける戦艦” ―
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【11:午前9時03分・キール運河入口 ― “巨大な艦、狭すぎる水路”】
ビスマルクの巨体が
軍港の出口を抜け、
いよいよキール運河へ向かう。
この運河の幅は
“戦艦のために設計されたものではない”。
幅およそ100メートル弱。
対してビスマルクは、
艦幅36メートルの“怪物”。
航海長フェッツナーは
双眼鏡を覗いたまま呟いた。
「……何度見ても狭い。
まるで巨人を人ひとり分の廊下に通すようだ。」
後方で副長シュルツが
腕を組んだまま静かに言う。
「この艦は欧州で一番広い軍港でも
“狭い”んだ。
キール運河が狭く見えるのは当然だ。」
艦橋スタッフの誰もが
息を詰めていた。
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【12:操舵室の緊張 ― “1度のズレで、艦が死ぬ”】
操舵士たちは
甲板下の操舵室で
汗ばむ手で舵輪を握っていた。
声は抑えられているが、
全員の動きは異様に細かく、
表情には一切の軽さがない。
操舵士A:
「舵角1度変更。
…..いや、0.5度だ。」
操舵士B:
「了解、0.5度。
誤差は許されない。」
キール運河の航行中、
操舵を誤れば
“座礁して作戦中止”となる。
艦の死はなくとも、
ドイツ海軍全体の作戦が潰える――
その重みを
操舵室の全員が理解していた。
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【13:リンデマン艦長、艦首を凝視する】
艦橋前面の防風ガラス越しに
リンデマン艦長は
“わずかに揺れる艦首”を見つめていた。
(この狭さだ。
30万トンの海水を押し分ける
この巨艦が、
たった数十センチの誤差で座礁する。)
艦長は
背後の副長に命じた。
艦長:
「全配置へ告げろ。
気を抜くな。
この運河が――
今日最初の“戦場”だ。」
副長:
「了解!」
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【14:アーベント、新兵の“異常な緊張”】
アーベントは機銃座横で
甲板作業を手伝っていたが、
動きがぎこちない。
先輩兵:
「アーベント、力を抜け。
今は敵と戦うわけじゃない。」
アーベント:
「でも……
この狭さ……。
艦がぶつかったら……」
先輩兵:
「ぶつからねえよ。
我々にはドイツの精密操艦ってもんがある。」
その言葉に
アーベントは少しだけ笑った。
だが胸の鼓動は止まらない。
(これが……本当の“戦艦の運動”なのか。
巨艦を操るってのは、
こんなに緊張するものなのか。)
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【15:港湾パイロットが乗艦する】
キール運河は
軍艦といえど、
自由に通航できるわけではない。
狭水道には専門の
港湾パイロット(操船専門家)
が必要だった。
小型艇がビスマルクへ接舷し、
白髪のパイロットが乗艦する。
パイロット:
「艦長、私が案内しましょう。
この運河は、
私の庭のようなものです。」
リンデマン艦長:
「心強い。
どうか我々の“最初の戦闘”を
勝たせてほしい。」
パイロットは微笑み、
航海長に指示を飛ばした。
パイロット:
「右に0.3度当て舵。
流れが速い。
全員、よく見ておいてくれ――
戦艦というのは、
本来こんな狭い場所を通る船じゃない。」
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【16:プリンツ・オイゲン艦橋 ― 緊張と余裕の混ざり合い】
一方、後続のプリンツ・オイゲンでは
若い士官たちが笑いを抑えつつ
航路を確認していた。
若手士官:
「あれだけの巨体が……
よくまぁ通れるもんだ。」
航海士:
「こちらはビスマルクより
舵が軽い。
まだマシさ。
だが前にぶつかればアウトだ。
注意しろ。」
重巡洋艦の船体が
ビスマルクの後ろを
ぴたりと追従し、
まるで巨大な銀灰色の大蛇が
一本の管を通るようだった。
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【17:陸上からの視点 ― “動く鋼鉄のビル群”】
キール運河両岸には
見物人がずらりと並んでいた。
市民A:
「なんて幅だ……
運河を満たす壁のようだ。」
市民B:
「いや、壁というより……
移動する要塞だな。」
市民C(父親):
「見ておけ、息子よ。
これが国の“力”だ。
しかし――
二度と帰ってこないかもしれない。」
息子:
「帰ってくるよ。
あんなに大きいんだもん。」
父親:
「大きい艦ほど、
深く沈む。
海戦とは……そういうものだ。」
その父の声は
奇妙に静かだった。
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【18:戦艦の“心臓”がうなる ― 機関室】
機関室では
巨大タービンがうなりを上げていた。
機関長:
「回転数安定。
圧力保持。
このまま微速で保持しろ!」
機関手:
「了解!
……しかし、
この艦の腹の中は地獄みたいだ。」
別の機関兵:
「地獄で働いてこそ、
甲板の連中は生きて帰れるんだ。」
汗が降り落ちる中、
誰も手を止めない。
ビスマルクの“心臓”が
狭い運河で
律動を刻み続けていた。
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【19:艦首が最も危険な区間へ ― “橋の下を通す”】
午前10時05分。
ビスマルクが
最も狭い橋梁区間へ差し掛かった。
航海長:
「橋脚、左右20メートル。
ギリギリだ。」
パイロット:
「もっと落ち着け。
艦は、こちらが震えれば震えるほど
予測不能な動きをする。」
艦長:
「航海長。
全弾に備えておけ。
ここでぶつかれば――
戦争は我々の“敗北”で幕を開ける。」
艦橋の全員が
喉を固くする。
艦首がゆっくりと
橋の影に入っていく。
(行け……
行け……
行け……!)
誰も声に出さないが、
全員の心が同じリズムで脈打っていた。
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【20:章末(2/15)― “狭水道の勝負”】
ビスマルクの艦体が
橋脚すれすれを通過した。
上下の隙間はおよそ
数メートル。
左右の隙間も
わずか20メートル。
船体がひときわ大きく
軋む音を立てた。
アーベントは息を止め、
副長は歯を食いしばり、
艦長はただ一心に前方を見つめ――
次の瞬間、艦首が橋の向こう側へ抜けた。
パイロット:
「……通過。」
艦橋全員が
ほんの一瞬だけ
深いため息をついた。
だが艦長リンデマンは、
すでに次を見ていた。
艦長:
「まだ終わりではない。
我々はこれから――
世界中の敵を相手にする。」
「第4章 続き(3/15)をお願いいたします」 とお知らせください。




