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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第190章  ◆第4章「シンガポール陥落 vs バルカン作戦」



《新寺子屋大講義室》


(今日も南條講師は前線指揮官のような立ち姿で黒板の前に立ち、

野本・富山・亀山・小宮部長・橋本副部長・重子・山田が前列を占拠している。)


■導入:南條


今日は 「シンガポール陥落(1942)」と「バルカン作戦(1941)」 を比較する。

どちらも “攻略不可能”と言われた地域を、数週間で落としてしまった作戦 だ。


ただし、

● 日本軍のシンガポール攻略:「補給を極限まで細くした歩兵突破」

● ドイツ軍のバルカン攻略:「航空・装甲・空挺の複合電撃戦」


性格はまったく違う。


今日は

・地形

・兵器

・補給線

・空軍使用方法

・指揮官の性格

・敵の弱点

この六要素で、二つの作戦を科学的に分解する。


■Part1:シンガポール陥落 ― “東洋における最強の要塞”がなぜ落ちたのか


●1-1 英軍が「海から来る」と信じたのが敗因


シンガポール要塞の火砲は

ほぼ全て海側(南)へ向いていた。


理由は当時の英国の戦略思想——

「日本軍は海上決戦を挑んでくる」

という固定観念である。


しかし日本軍は北側のマレー半島から

森林・沼沢を抜けて歩兵で押し寄せた。


●兵器:15インチ海岸砲


・射程:30km級

・砲弾種類:徹甲弾主体

・対艦砲撃には最強

・しかし…対地榴弾はほぼなし


つまり 陸上戦は想定外。


●1-2 日本軍の奇跡:ジョホール海峡の強襲渡河


シンガポールは本島とマレー半島の間に

幅1〜2kmの海峡がある。


日本軍は夜間、

小舟・筏・浮橋で強行渡河した。


●兵器:九七式速射砲・軽迫撃砲


軽量火砲を舟に積んで上陸し、

上陸直後の英軍陣地を破壊した。


日本軍の砲兵は

ドイツ軍のような大規模火力こそ無いが、

驚異的な“軽量・分解・再組立”能力で密林を越えてきた。


●1-3 イギリス軍の弱点:多国籍部隊の統制不能


英軍側は

・英軍本隊

・インド軍

・オーストラリア軍

・マレー義勇軍

など、出身も訓練水準も異なる混成部隊。


無線通信も統一されておらず、

陣地間の連携も弱かった。


●1-4 日本軍の“補給の極限”


日本軍はシンガポール突入時、

弾薬残量1〜2日分しかなかった。


補給線は

● 小舟

● 捕獲した英軍トラック

● 自転車

● 現地徴発


という“綱渡り輸送”だった。


本来なら完全に補給破綻。

それでも突撃した理由は

**「敵の士気崩壊を察知した」**からである。


●1-5 降伏:パーシバル司令官と山下奉文の対峙


パーシバルは

「市民の被害拡大」を理由に降伏を選択した。


対する山下は

「イエスかノーか」

という有名な恫喝を行い、

英国側は全面降伏した。


■Part2:バルカン作戦 ― ドイツ軍の“地形無視の戦い方”


●2-1 ユーゴスラビア戦とギリシャ戦


ドイツ軍は、

イタリア軍がギリシャで泥沼戦を展開していたため、

その尻拭いとして参戦。


しかしドイツ軍は

北から一気に突破して数週間でギリシャ全土を制圧。


●兵器:III号・IV号戦車


山岳地帯は通常、戦車が不利。

しかしドイツ軍は

「軽装甲車」「重砲を牽引した山岳砲兵」

を駆使して突破した。


●2-2 最大の見せ場:クレタ島空挺作戦(メルクール作戦)


世界史に残る「最大規模の空挺作戦」。

しかし損害も世界史に残るレベルで甚大。


●兵器:空挺降下装備


・Ju52輸送機

・Fallschirmjäger(パラシュート歩兵)

・軽迫撃砲・小銃のみ

・空挺兵は武器ケース別投下(降下後に武器を拾う必要)


この致命的欠陥で、空挺兵は重武装の英軍に多数撃たれた。


●2-3 それでも勝った理由:航空支配


ルフトバッフェが

・島内の英軍拠点

・対空砲陣地

・通信施設

を徹底的に破壊。


航空優勢があれば、

空挺作戦は強引に成立してしまう。


またドイツ軍は

海上補給はほぼゼロにもかかわらず

航空投下物資で持ちこたえた。


これがのちに

スターリングラードでの大失敗(航空補給の限界)

につながる皮肉。


■Part3:日本とドイツの“要塞戦の違い”


項目日本シンガポールドイツ(バルカン)

兵器体系歩兵中心・軽砲機甲+航空+空挺

補給極限に脆弱空輸+陸上補給が充実

地形熱帯密林+海峡渡河山岳・島嶼

敵の弱点指揮系統の分裂航空戦力不足

作戦思想士気崩壊を突く技術統合で叩く


方向性が完全に違う。


日本軍は“精神+浸透”。

ドイツ軍は“機械+航空力”。


■Part4:質疑応答(大幅拡張)


◆野本(質問1)


「ギリシャやユーゴって山ばっかりですよね?

戦車って本当にそんなところを走れるんですか?」


南條


走れない。

正確には“走れる道を探して戦線を組み立てた”。


ドイツ軍の得意技は

「戦車が通れるルートだけを即席で道路にする」

という工兵力だ。


日本軍のマレー密林突破と同じで、

「通れない」と言われた場所を通ること自体が戦術。


◆富山(質問2)


「空挺作戦ってロマンだけど、あれって危険すぎません?」


南條


危険どころか

**世界で一番“死にやすい兵科”**だ。


特に1940年代の空挺作戦は

・降下中に狙撃される

・武器を拾う前に撃たれる

・散開して迷子になる

など、死亡率は軽歩兵の比ではない。


クレタ島はドイツ空挺部隊の“初陣”だったが、

損害があまりに大きすぎて

ヒトラーが「二度と空挺作戦はやらん」と言ったほど。


◆亀山(質問3)


「シンガポールって食料とかどうしてたの?

日本軍っていつも補給ギリギリじゃない?」


南條


ギリギリどころか

“補給死”寸前の状態だった。


・弾薬1〜2日分

・食料2日分

・水は現地井戸頼り


日本軍の“補給軽視”はここでも深刻。

ただし英軍側は

・混成部隊で士気低下

・指揮官の不統一

・自軍の火砲の用途誤認

など内部崩壊が進んでいたため、

日本軍は補給破綻寸前でも押し切れた。


◆小宮部長(質問4)


「空挺って、強いのか弱いのかよくわからないわね……」


南條


“最初の1時間だけ最強”。

それ以降は“補給が切れた軽歩兵”。


空挺は

● 奇襲

● 拠点占領

● 敵背後かく乱


においては無類の強さだが、

継戦能力は低い。


ドイツ軍がギリシャでこれをやり切れたのは

航空支援が100%確保されていたから。


◆橋本副部長(質問5・技術マニア)


「シンガポールとクレタ島の戦いって、航空力が全てなんですか?」


南條


50%くらい。

残り50%は

敵側の弱点を見抜く情報力。


シンガポールでは

・英軍が“海から来る”と思い込んでいた

・重砲が陸上に役に立たなかった

これを日本軍が完全に利用した。


クレタ島では

・英軍の対空網が予想以上に弱かった

・防御指揮が分散していた

これをドイツ空軍が突いた。


どちらも

“敵が誤解している地点を刺す”

という戦いだ。


◆山田(質問6)


「日本軍に空挺部隊ってあったんですか?」


南條


あった。


● 挺進連隊(空挺部隊)

・落下傘降下

・軽迫撃砲や火器を小型化

・輸送機は九七式輸送機(性能は低い)


ただし能力はドイツほどではなく、

大規模空挺作戦も少ない。


最も有名なのは

パレンバン空挺作戦(蘭印) だが、

クレタのような大規模ではない。


◆重子(質問7)


「結局、日本とドイツの“強み”って何だったんですか?」


南條


まとめるとこうだ。


●ドイツの強み


・航空火力

・戦車+無線の統合作戦

・工兵力

・迅速な指揮決断

・戦域機動力


●日本の強み


・夜戦

・歩兵技能

・浸透戦術

・精神的優勢

・地形適応の高さ


つまり、

ドイツ=“技術の軍隊”

日本=“技能の軍隊”


その違いが“要塞攻略”にも如実に現れた。


■Part5:講義後 ― 暇つぶしサークル部室(小劇場)


富山

「ドイツ軍の空挺って、なんか映画みたいね……」


野本

「でも武器を拾いに走ってる間に撃たれるのは嫌だなぁ……」


亀山

「シンガポールの渡河も怖いわよ?

夜に海峡渡って、向こうから撃たれるとか絶対無理。」


橋本副部長

「僕はIII号戦車が山岳を走るってとこが信じられない。」


小宮部長

「あんた、昨日も戦車の本読んでたでしょ。」


山田

「日本軍の補給の弱さ、なんとかならんかったんすかね……」


重子

「でも、弱い補給を“戦術で補った”のが日本軍じゃない?」


野本

「南條先生、次は?」


南條(背後から)

「次は 第5章:香港攻略 vs 北アフリカ電撃戦ロンメル だ。」


全員

「また背後からーーー!!」

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