第180章 ◆《AIヒストリーライブラリー退出シーン》
(ホログラムに“体験セッション第1回:終了”の表示。
脳の奥でまだ波の振動が残っているような、奇妙な余韻が部屋に漂っている。)
■1.強制ログアウトの瞬間
(最後に見ていた映像――
【20:荒天訓練】の“巨艦が荒海を蹴り上げた瞬間”が、
画面の端からゆっくりフェードアウトする。)
AI
『心拍および前頭葉負荷を検知。
ガイドラインにより、本日のAIヒストリー体験はここまでです。
次回セッションは24時間後に再開されます。』
野本(思わず手を伸ばす)
「えっ、ちょっと……もう終わり……?
だって今、ちょうど新兵が“海の本気”に気づいたところで……!」
富山
「そうだよ……“旋回訓練”と“夜の艦橋”めっちゃ面白くなってきたのに……。
ていうか、脳のどこが疲れてんのよ……私まだ全然見れるわ。」
亀山(現実的な声)
「“見れるわ”って言っても、BMI接続だと脳みそに負荷蓄積するのよ。
部長なんて途中で呼吸浅くなってたでしょ?」
小宮部長(苦笑しながら)
「……波が強すぎて、“船酔い”じゃなくて“脳酔い”したのよ……
あの揺れ方リアルすぎるんだけど……。」
橋本副部長
「だって主観データそのまんまなんだから当然だよ。
アーベント新兵が階段で吹っ飛んだ瞬間、僕も身体浮いたし。」
山田(腕をさすりながら)
「俺、絶対あれ明日になっても筋肉痛残るわ……。」
■2.“もっと見たい”と“見られない”の葛藤
重子(名残惜しそうに端末を閉じながら)
「でも……
あの“北海夕景”だけでも胸が締め付けられましたね。
あの夕日、絶対フラグでしょ。
これから地獄が来るってやつ……。」
富山(目を輝かせながら)
「でしょ!?
“今見てる世界は、これから失う世界”って兵曹が言った瞬間、
私泣くかと思った……!」
亀山(口をすぼめて)
「それより私は艦長の訓示がヤバかったわ。
あの声の落ち着きよ……
“過信しない”ってああいう意味なのね……。」
野本(控えめに)
「……あのまま続けたら、
きっと“フッド戦”まで行っちゃいますよね。
だからガイドラインが止めたのかな……。」
■3.AIヒストリーの“危険性”を理解する時間
(表示パネルに、AIヒストリーの注意事項が表示される。)
小宮部長(読み上げる)
「“長編戦闘系ヒストリーは、
情動刺激が強すぎるため連続視聴は推奨しません。
回復セッションを挟んでください”……だって。」
富山
「いや、あなたたちがあんなリアルなの作るからでしょAI……。
あれ普通に映画より精神削れるよ。」
橋本副部長
「特に荒天訓練は最悪だよ。
船体が傾いた瞬間、
後頭葉に“ほぼ落下”の感覚入ってきたし……。」
山田
「海の匂いまでしたよな……
潮と油が混ざったあの感じ。」
重子
「感覚まで再現されてるなら、
そりゃ休憩必要ですよ……。
次はもっとすごそうですし。」
亀山
「次?……ああ、【高速旋回訓練】の続きね。」
■4.名残惜しい退出
(ホログラムが淡く消えていく。
ビスマルクの巨大な影が、霧の奥へ沈むように。)
野本
「……はぁ……続き……見たい……。」
富山
「帰りたくない……というか、
もう“船の中”から戻りたくない……。」
小宮部長(苦笑)
「わかるけど、
あんたたち睡眠とらないと次のセッションで倒れるわよ?」
橋本副部長
「24時間後には【プリンツ・オイゲン合流】が始まるのか……
絶対やばいじゃん……!」
山田
「訓練終わって、
艦長が“これより作戦行動に移る”って言ったとこで終わりだもんな……。」
重子
「続きは……“北大西洋”ですよ……。」
(声が震える)
亀山
「ほら、帰るよ。
その“震え”のまま続き見たら、
次はたぶん泣くから。」
■5.出口のドアが閉まるとき
(部屋のドアが自動で開き、廊下に冷たい夜の空気が流れ込む。)
野本(振り返りながら)
「……次のセッションで、
リンデマン艦長の“作戦前夜”が始まるんですよね……。」
ミナカタAI(壁面の端末から)
『はい。次回は
――【プリンツ・オイゲンとの隊列同期】
――【戦隊通信訓練】
――【北方海域への針路変更】
から開始します。』
富山(震えるような興奮)
「うわ……いよいよ“あれ”じゃん……
“デンマーク海峡”までのカウントダウンじゃん……!」
小宮部長
「ほら、閉めるよ。
このままじゃ全員、食事も忘れる。」
(ドアがゆっくり閉まり、
ビスマルクの荒海の記憶だけが
彼らの身体に残ったまま――
静かな廊下に、乾いた靴音だけが響き始める。)




