第91章 錦糸町・高架下の立ち飲み屋 D-140
雨上がりの湿った空気に、焼き鳥の煙とビールの泡の匂いが混じっている。
作業着のまま腰掛けた男たちが、手を黒くしたままジョッキを傾けていた。
山岡(50代・鳶職)
「なぁ、お前ら最近ガソリン代ヤバくねぇ? また上がるってよ」
佐藤(40代・運送)
「聞いた聞いた。台湾の方で何かあったら、もっと跳ね上がるらしいな」
山岡
「台湾? ああ、なんか中国の船が尖閣とか宮古の近くうろついてるってニュースな」
松浦(30代・解体工)
「うちの親父が新聞で見たって。海保の巡視船とニアミスだかなんだか」
佐藤
「そんなの昔からやってんじゃねぇの? けど、もし揉めたら輸入品全部値上がりだぜ。コンビニの弁当だって高くなる」
山岡
「そういや東京港で火事あったろ。あれで輸入の荷物遅れたって言ってたぞ。現場の資材も入ってこねぇかも」
松浦
「週刊誌は“台湾有事”とか書いて煽ってるけどよ…俺らに関係あるのは材料費と日当だよな」
佐藤
「そう思ってると、気づいたら仕事止まってるかもな。港止まれば現場も止まる」
三人は一瞬黙り込み、串から肉を外して口に運んだ。
次の瞬間、「で、明日の現場、雨だから遅め集合でいいよな?」と話題は日常に戻った。