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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第155章 疑似ドッグファイト


シナリオ設定

•時期:1942年 夏ごろ

•場所:ソロモン諸島近海 上空


•自機:零式艦上戦闘機二一型(A6M2)


•強み:

•低速域(200〜300 km/h)で抜群の旋回性

•低高度〜中高度での上昇性能

•長大な航続距離

•良好なロール(ただし高速域では重くなる)


•弱み:

•装甲ほぼ無し(パイロット防弾・自封タンクなし)

•高速域では操舵が急激に重くなる

•高速ダイブ耐性が低い(翼強度・操舵力の限界)



•敵機:F4F-4 ワイルドキャット(米海軍)


•強み:

•丈夫な機体構造・自封タンク・防弾

•高速ダイブ性能が良い

•中高速域での安定性


•弱み:

•零戦より旋回が遅い

•上昇・加速で劣る

•失速特性がやや厳しい

•高度:5,000 m

•こちら 2 機編隊、敵 4 機(いわゆる「ラテラル隊形」)

•自分は僚機を伴う先頭(長機)


空中戦シミュレーション(零戦パイロット視点)


※一人称で進めます。

※随所に、現実の機体特性に基づいた「なぜその操縦・戦術を取るか」を自然に織り込みます。


① 接敵前 ― 高度と位置取り


——エンジン前方から、わずかに油の匂いが漂ってくる。


「高度、五千。燃料、まだ十分だな。」


零戦二一型は、この高度でもまだ軽く操縦桿が動く。

右手でスロットルを微調整しながら、左翼前方にちらりと目をやる。

僚機が、きっちり 100 メートルほど右下に位置を保っているのが見える。


無線:


「一番機より二番機。敵影、見えるか。」


『……こちら二番。前方一時方向、約十キロ、黒点四。高度は同じくらい。多分グラマンだ。』


遠方に並んだ 4 つの黒点。

間隔をあけて、二機一組が左右に分かれている。

典型的な米軍の「二機編隊 × 2」。

互いにカバーし合う隊形だ。


零戦の強みは旋回と上昇。

真正面から 2対4 でやり合えば、こちらの運動性を押し付けやすい反面、袋叩きにされる危険も高い。

まずは高度優位をとることを優先する。


スロットルをやや押し出し、わずかに上昇。

速度を 260〜280 km/h 程度に保ちながら、なめらかに天をなぞるように登っていく。

このあたりの速度域なら、零戦は舵が軽く、すぐ旋回に移れる。


「二番。高度百〜二百上を取る。編隊、右旋回で接近する。目を離すな。」


② 最初の交差 ― 旋回戦に引きずり込む


グラマンの編隊も、こちらに気づいた。

隊形を崩さないまま、こちらに正面から向き直ってくる。


米軍機は、こちらの旋回性が高いことを知っている。

だから通常は、正面からすれ違って、そのまま上昇・離脱(ブーム&ズーム) を狙ってくる。

そこを狙う。


すれ違い直前、スロットルを絞り気味にし、速度を約 250 km/h まで落とす。

ゼロは低速でも舵がよく効く。

逆にグラマンは、低速に落ちるほど舵が鈍くなる。


交差距離 500 m。

すれ違いざま、胴体側面が一瞬だけ視界をかすめる。紺色の機体。F4F だ。


「……来るぞ。」


交差の瞬間、操縦桿を軽く右へ倒し、ラダーを踏み込む。

速度をあえて抑えていたおかげで、機体が素早く右に傾く。

そのまま右急旋回に入る。


グラマンもすぐ旋回を開始したが、こちらほど機首が内側に回り込んでこない。

G をかけつつ、速度計は 240、230 km/h と落ちる。

零戦にとっては、まだ十分余裕のある領域だ。


円を描くように旋回を続けるうち、

グラマンの側背後に、少しずつ自機の機首が入り込んでいく。


『二番より一番! 一番機、もう少しで後ろに取れるぞ!』


「焦るな。失速させるなよ。」


零戦は軽いが、翼面荷重が小さいぶん、低速では急激に迎え角が増えやすい。

必要以上に操縦桿を引き込むと、あっさり失速する。

そこを無理せず、じわじわと追い込む。


旋回を続けること十数秒。

視界の右前方にいたグラマンが、やがて照準線の中央やや上に収まる。


距離約 250〜300 m。

零戦の 20 mm 機関砲なら、有効射程だ。


③ 初弾射撃 ― 武装と射撃


武装:

•20 mm 機関砲 × 2(翼内)

•7.7 mm 機銃 × 2(機首)


距離が詰まるにつれ、照準器のリングの中で、敵機の機体がわずかに揺れる。

こちらの機体も旋回中で完全な安定は得られないが、

零戦は旋回中の姿勢制御が素直なので、「安定しないなりに」狙いをつけやすい。


呼吸を一度止め、トリガーを短く引く。


——20 mm がドドンと機体を震わせる。

翼から白い煙が一瞬だけ伸び、光る線がグラマンの後部胴体に向かう。


命中。

敵機の右エルロン付近で、銀色の破片が散るのが見えた。

右翼がわずかに下がり、旋回面から外れていく。


だが、グラマンはすぐには壊れない。

重装甲の米軍機は、致命弾をもらっていない限り、しぶとく飛び続ける。


「……やはり頑丈だな。」


零戦なら、一発でも致命傷になりかねない損傷だが、

ワイルドキャットは燃料タンクも自封式で、簡単には炎上しない。


敵機はバンクを立て直すことを諦め、

機首を下げて急降下に移った。


④ 垂直機動 ― 追うか、登るか


『一番、追うか!?』


視界の下端に、小さくなっていく敵機。

零戦で無理に高速ダイブを追いかけるのは、悪手だ。


高速域(500 km/h 以上)では、零戦の操舵が極端に重くなり、

エレベータ・エルロンともに効きが鈍る。

構造的な強度も、米軍機ほど余裕がない。


「……いや、追わん。こちらは上を取る。」


スロットルを 7 割ほどに戻し、徐々に機首を上げる。

速度が 240 → 220 km/h と落ちていくのに合わせて、

翼が空気を噛むような感触が操縦桿に伝わる。


**垂直上昇に近い「ゆっくりした上昇旋回」**に移行し、

上空の様子を確認する。


前方左上に、もう 2 機のグラマン。

こちらの初回の旋回で遅れ、今になって追いついてきたようだ。

彼らは、こちらを無理に追い回さず、やや距離を保ったまま、再度ヘッドオンの位置を取り直そうとしている。


米軍パイロット教範どおりの動きだ。

零戦に旋回戦を仕掛けるな、

速度と高度を活かした一撃離脱で戦えという教え。


「二番、少し距離を取れ。こちらは左上に出る。」


僚機にも軽く上昇を指示し、編隊を縦にずらした「梯子」のような形にする。

上:自機

下:僚機


上からは攻撃機会を待ち、

下の僚機は、グラマンがこちらの高度を奪いに来た時のカバーに回る形だ。


⑤ 米側の反撃 ― 一撃離脱&カバー


2 機のグラマンが、速度を保ったままこちらに接近してくる。

小刻みなロールと機首の上下動。

編隊の動きからして、互いにカバーし合う「Thach Weaveサッチウィーブ」に近い動きを準備している。


すれ違いざまのヘッドオンを避けるため、こちらは軽くバンクを取って斜めに上昇する。

突っ込んでくるグラマンの一機が、こちらに向けて短く射撃。

曳光弾の筋が、機首の下をかすめて流れていく。


『おい、近いぞ!』


「慌てるな。やつらが通り過ぎた後だ。」


グラマンがこちらの下をすり抜ける瞬間、

相手はすぐバンクを反転し、上昇旋回に移る。

隊形を組んだ二機が互いに交差しながら、

零戦の後ろに回り込むタイミングを伺っている。


これが米軍の「互いにカバーし合う」教えの実行形だ。


こちらが一機を追えば、その尾にもう一機がつく。

そういう形を狙っているのが、空中からでも見て取れる。


⑥ 「相手を追わせる」 ― 誘いの機動


こちらは上にいる。

高度優位は、零戦の命綱だ。


「二番、下に降りて、少しだけ奴らを誘え。無理はするな。」


『了解。一度だけ、尻を見せて逃げる。』


僚機が高度を少し落とし、

わざと敵の前方を横切る形で飛ぶ。

「追いやすい標的」を演じる。


予想どおり、グラマンの一機が、

僚機を追ってわずかに高度を落とした。


もう一機はカバーに残るが、

わずかに間隔が空いた。

ここが隙だ。


自機は高度を生かし、

機首を下げつつ右へバンク、上からの一撃離脱の形に入る。

零戦本来の設計思想とは逆だが、高度がある今は、こちらもブーム&ズームをまねてよい。


速度計が 350 → 380 → 400 km/h と伸びていく。

このあたりから、エルロンの効きが少しずつ重くなり始める。

操縦桿の入力を最小限に抑え、

照準器を、僚機を追うグラマンの背後やや斜め上に、すべり込ませる。


距離 400 m。

さらに近づき、300 m……250 m……


トリガーを一秒弱、短く引く。

20 mm と 7.7 mm が同時に唸りを上げる。


敵機の左翼付け根あたりで、

白い煙と火花が散る。

次の瞬間、グラマンの翼ががくりと折れ、黒い煙が尾を引き始めた。


『ヒット! 一番、落ちたぞ!』


「よし。離脱する、上を見るんだ。」


追撃はしない。

撃墜した機を追って急降下すれば、

今度は上に残っていたもう一機のグラマンの餌食になる。


トリガーを離すと同時に、

スロットルを絞り気味にして軽く引き起こす。

失速しないギリギリの角度で上昇に戻り、

再び高度優位を取り直す。


⑦ 戦況整理 ― 残存機と燃料


状況を整理する。

•こちら:零戦 2 機(損傷軽微)

•敵:F4F 3 機(うち 1 機が大破・急降下脱落、1 機は先ほどダイブ離脱)


『一番、燃料は?』


「まだ半分以上はある。だが、あまり長居はできん。」


ソロモンの空戦は、基地までの距離が長い。

零戦の航続距離は大きな利点だが、

戦場上空で深追いしすぎれば、帰りの「余裕」が消える。

万一エンジンに被弾していた場合、燃費は悪化し、

基地へ帰還する余力も失う。


「勝てる戦いでも、深追いすると負ける」

これもまた、何度も聞かされてきた教えだ。


⑧ 最後の交戦 ― 短時間決戦


残る 2 機のグラマンが、高度を保ったままこちらをにらんでいる。

こちらは 2 機で、やや上。


互いに決定打を狙っているのがわかる。

正面から突っ込めばヘッドオン、

旋回戦に持ち込めばこちらが有利だが、

相手はおそらく、サッチウィーブでこちらの正面に銃口を向けてくる。


「二番。今度は、おれが下に出る。お前は上から見ていろ。」


『え? 一番が囮か。了解。』


自機は僚機と軽く高度を分け、今度は自分が下。

グラマン二機の間を、わざと横切るように進入する。

速度はやや高め、300〜320 km/h を維持。


敵は、予想通り反応した。

一機が右から、もう一機が左から、

互いに交差するようにこちらを狙ってくる。


曳光弾が、コクピットの左右をかすめていく。

バイザー越しに、ガラスに弾痕が一つ二つ刻まれる。


「……近いな。」


舵を急に切らない。

零戦は軽いぶん、乱暴な操舵で姿勢を崩しやすい。

一瞬だけ操縦桿を前に倒し、急激に高度を約 50 m 落とす。

同時にエルロンで軽くロールし、

敵の照準線から機体を外す。


その瞬間——


上から一筋の白煙。

僚機が、敵編隊の交差点に向けて、

鋭い降下射撃を浴びせかけた。


上から見下ろす位置にいた二番機にとっては、

**互いに交差する敵機は「進路が読みやすい標的」**だ。

相手は自分たちのカバーに集中していたぶん、

上からの一撃には反応が遅れる。


一機のグラマンの右翼付け根あたりで爆発が起こり、

バンクを維持できず、スピンに入る。

もう一機は急激に機首を下げてダイブ、

白煙を引きながら雲の中へ逃げ込んでいく。


『ヒット。……一機、完全に落ちた。もう一機は下へ逃げた。』


「よし。深追いはしない。帰るぞ。」


⑨ 離脱 ― 零戦パイロットが意識する「現実」


スロットルを巡航まで絞り、

高度を保ちながら基地方向へ旋回する。


空戦は、こちらのペースに持ち込めた。

旋回力と上昇力で優位に立ち、

高度優位を生かして「上から下への一撃」を繰り返し、

米軍機の一撃離脱を逆手に取った形だ。


だが、

頭のどこかでは常に、別の計算をしている。

•燃料残量

•自機・僚機の損傷具合

•敵がさらに増援を呼んでいる可能性

•帰路での天候悪化


零戦の操縦席は、前方視界こそ良好だが、

後方の視界は決して広くない。

防弾板も薄く、被弾すればすぐ命に直結する。


「勝てた戦いかどうか」よりも、

「生きて帰れたかどうか」の方が、

この空では何倍も重い。


雲間から射し込む光の中を、二機の零戦が並んで飛ぶ。

僚機の機体に、大きな損傷は見えない。

軽い弾痕がいくつか刻まれている程度だ。


『……一番、おつかれ。今日はついてたな。』


「運も腕のうち、ということにしておこう。」


胸ポケットに差した小さな鉛筆とメモ帳。

帰ったら、

燃料消費と弾薬残量、戦闘時間と高度の推移、

敵の隊形と反応を、

できる限り細かく記録するつもりだ。


次に飛ぶとき、今日の経験が

「また一機、余計に生き残る」ための糧になるかもしれないからだ。


零戦は、静かに、しかし確実に基地へと向かっていく。


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