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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第145章 攻城と海戦の“工学化”:張力・ねじり・質量・速度の時代(兵器31〜40)



――「都市は武器となり、武器は都市を破壊するために進化した」


南條講師


夕暮れ前の新寺子屋第2講義室。

重い雲。

雨の匂い。

空気にわずかな緊張が混じっている。


今日は、石・青銅・鉄が「歩兵の時代」を築いたあと、

初めて“都市そのもの”を破壊しようとした兵器の章だ。


南條は教卓に立ち、黒板に大きく書いた。


「攻城戦の工学化」


「――今日扱うのは、

 建築・張力・ねじり・重力・流体力学

 これらの物理を、戦争に“直接”持ち込んだ兵器群だ。」


ホログラムが点灯し、

巨大な木製のカタパルトが現れる。

緊張して見入る学生たち。


「歩兵が主役だった鉄器時代の次に来るのは、

**“都市を破壊する技術の体系化”**だ。」


野本(静かな声)

「都市を……壊すための技術……」


南條

「そこには、建築技術者、工匠、木工職人、石工――

兵士以外の人間が大量に関与してくる。

戦争が“職能集団の総合戦”へと変わる瞬間だ。」


では、31番から始めよう。


◆31.カタパルト(ねじり式射出器)


― 人類が“距離”を武器にした瞬間


ホログラムに、太い縄をねじり合わせた枠と木の腕、

巨大なスプーンのような射出皿が映る。


南條

「カタパルトとは“張力”ではなく“ねじり”を利用した射出兵器だ。

技術的には、

トーション(ねじり束)=縄を強くねじることで蓄えたエネルギー

を一気に解放して射出する。」


橋本副部長、机から身を乗り出す。

「先生、“バネ”ではなく“ねじり”なんですよね?」


「そうだ。

 トーション束に麻縄・動物腱シニューを使用し、

 高湿度と温度で性能が変わる。

 乾燥すると射出力が落ち、湿気ると性能が上がる。」


富山「え、天気で威力変わるの!?」


「変わる。

 だから“攻城戦の天気予報”は超重要情報だった。」


射程:150〜300m。

精度:低いが、“面攻撃”として有効。


野本

「当たらないけど“広く壊す”兵器なんですね……」


「その通り。」


◆32.バリスタ(巨大クロスボウ)


― 精密射撃の怪物


南條は次に、バリスタの構造を表示した。

両側に巨大な弓腕。

中央には長いガイドレール。

ハンドルで巻き上げる。


「バリスタは“ねじり”ではなく“張力”を使う。

つまり、巨大なクロスボウだ。

射出物は矢・石・鉄のボルト。」


橋本副部長

「つまり、射程=張力の関数……?」


南條(頷く)

「張力、弓の長さ、ボルトの質量で決まる。

最大射程は約400m。

精度は、当時の兵器としては破格だ。

城壁の弓兵を狙い撃ちできる。」


富山「ピンポイントで当てるの!?」


「熟練クルーが操作すれば、できる。」


野本

「怖い……“狙われる”ことの恐ろしさ……」


◆33.攻城塔シージタワー


― “動く建築物”の極致


巨大な木製タワーがスクリーンに現れる。


小宮部長、目が輝く。

「わ……構造美……!」


南條

「攻城塔は、建築そのものだ。

高さ15〜20m、三層構造。

内部は階段と兵士でぎっしり。

外側は濡れた皮革で防火処理。」


富山

「え、これ運ぶんですか!?」


「運ぶ。

 車輪は太い丸太。

 地面がぬかるむと動かない。

 だから攻城軍は“地面の整地”から始める。」


山田

「戦争って……土木だ……」


南條

「戦争は、土木と工学の総合芸術だ。」


塔頂部からドローブリッジを城壁に渡し、

重装歩兵が一気に突入する。


亀山

「これ、防御側はどうするの?」


「大抵は“火”だ。

油、ピッチ、燃える藁。

攻城塔は防火処理していても、火攻には弱い。」


◆34.攻城槌バッタリングラム


― 質量 × 速度の破壊兵器


スクリーンには、巨大な丸太を吊り下げた装置。


南條

「破城槌とは、

“運動エネルギー(1/2 m v²)を繰り返し叩きつける兵器”

と言い換えてよい。」


橋本副部長

「先生、エネルギー量は?」


南條

「丸太500kg、速度2m/sでぶつけると

約1000〜1200ジュール。」


富山

「え、成人男性10人が殴る以上……!」


「それを数十回叩き込む。

城門は壊れる。」


亀山が現実的に口を挟む。


「槌を振る兵士って……すぐ疲れるんじゃ?」


「だから交代制だった。

攻城槌の運用は、現代でいえば“重量作業班”だ。」


◆35.衝角ラム(海戦用ラム)


― 船体 × 運動エネルギーの“海上戦車”


海が映る。

古代ギリシアの三段櫂船トリレームが、

船首に鋭い青銅製の衝角を付けて進む。


南條

「当時の海戦は、

“ぶつける”戦術が主流だった。」


山田

「ぶつける……?」


「船首につけた青銅の衝角ラムを、

敵船の船腹に突き刺し、

“穴を開けて沈める”。

槍ではなく、船が槍になる。」


富山

「スピードはどのくらい?」


「三段櫂船は、最大時速10〜12ノット。

衝撃は大きい。」


小宮部長

「青銅装飾が美しい……」


南條

「美術ではなく“機能美”だ。

船体への固定方法、重量バランス、

すべて緻密に設計されている。」


◆36.投火器(火攻具)


― “火”は古代最大の兵器


スクリーンには、壺に入った油と、点火装置。


南條

「火は、攻城兵器よりも恐れられた。

城壁の木材、攻城塔、門――燃えるものが多すぎる。」


亀山

「そりゃそうよね……燃えるわよ……」


「油壺に布と火種を入れ、城壁に投げつける。

火の粉が広がり、パニックを引き起こす。

心理的効果も大きい。」


野本(小さく)

「人間、火を見ると……逃げます……」


「そうだ。

火攻は“心理兵器”でもある。」


◆37.攻城梯ラダー


― 最も“原始的だが必須”の攻城具


南條

「攻城梯は、ただの“長いハシゴ”だ。

しかし、攻城戦では超重要だ。」


富山

「え、なんでハシゴが……?」


「階段状の攻城塔が作れない場合、

最速で城壁に取り付く手段だからだ。」


重子

「死傷率……すごそうですけど。」


「すごい。

梯子を登る兵士は、上から石・矢・油を浴びせられる。

だが、“壁を制した者が戦場を制す”ため、

必ず使わざるを得ない。」


◆38.城壁(多層式)


― 都市が“兵器”へと進化する


南條、黒板に城壁断面図を描く。


「鉄器時代後期から城壁は“多層構造”になる。

・外壁:石積み

・中層:土や瓦礫

・内側:補強材

こうした“複合防御”だ。」


小宮部長

「建築的に、美しいですよね……石の積み方も種類があって……」


「石積みは“耐衝撃”が目的だ。

攻城槌の衝撃を吸収し、全体に拡散させる構造。」


山田がぽつり。

「城……って武器なんだ……」


南條

「その通りだ。

都市そのものが“防御兵器”だ。」


◆39.城門強化(鉄板・複層扉)


― 最も狙われる場所の“装甲化”


「城門は攻撃の第一目標。

だから木の扉に鉄板を貼り、

内部に横木バーをかけて補強する。」


亀山

「鉄板……高くない?」


「高い。

 だからこそ城門は都市の“顔”でもあった。

 守る価値があるから、金をかける。」


富山

「攻城槌で壊されても、また直すんですか?」


「そう。

 攻城戦は、

破壊 → 補修 → 再破壊

という“工学の殴り合い”になる。」


◆40.海上投射デッキバリスタ


― 海戦に“射撃”を持ち込んだターニングポイント


トリレームの甲板に据え付けられたバリスタが映る。


南條

「海戦は、ラム突撃だけでは終わらなくなる。

艦上に置かれたバリスタで、敵の船員を狙い撃つ。

これにより、

**“海戦=三次元戦”**へ。」


富山

「海の上で当たるの……?」


「熟練の砲兵なら当てる。

 海戦は次第に“射撃戦”へと移行していく。」


野本、静かに言う。

「……戦争が、地上から海へ“広がる”んですね。」


「その通り。

 攻城戦も海戦も、

武器の発達によって“戦争の空間”が広がっていく。」


◆南條のまとめ:攻城戦=工学の総合戦


黒板に、太い文字が書かれる。


「攻城戦=兵器 × 土木 × 建築 × 心理」


「攻城戦こそ、

技術・物理・人間心理の総合戦だ。

攻める側は“破壊工学”、

守る側は“建築防御工学”。」


重子

「つまり……都市国家は、技術者を抱えていないと生き残れない……?」


「その通りだ。」


◆質疑応答:暇つぶしサークルの“攻城戦大会議”


●野本


「攻城塔の中って……怖くなかったんですか?」


南條

「暗く、揺れ、外では火が飛び交う。

 恐怖はあった。

 だが、“隊として動く”ことで心理的負荷を分散した。」


●富山


「カタパルトって、当たるんですか?」


「狙うのではなく、“範囲を叩く”兵器だ。

 精度は低いが、心理効果は絶大。

 巨大な石が落ちてくるだけで兵士は怯む。」


●亀山


「攻城戦って……お金かかるわね?」


「かかる。

 攻城塔の建材費、工匠の賃金、兵站。

 攻める側が圧倒的に金を使う。

 だから戦争は“富の集中”がないとできない。」


●小宮部長


「城壁の石積み……美しい……

 あれ、どういう構造が一番強いんですか?」


「“層積み”と“楔石構造”だ。

 衝撃を均等に分散し、崩れにくくする。

 攻城側との“知恵比べ”だ。」


●橋本副部長


「衝角ラム、船体の補強ってどうするんです?」


船首肋骨ステム龍骨キールを強化する。

衝角は“船の骨格”が支える。

衝角だけ強くても意味がない。」


●重子


「攻城戦って……社会をどう変えたんですか?」


「都市国家は、

防御施設 → 技術者階級 → 税制度 → 官僚組織

という“国家形成の四段階”を経る。

攻城兵器の発展は国家そのものを育てる。」


●山田


「先生……火攻めって……

 火って、どれくらい怖いんですか?」


南條

「炎は、

・熱

・煙

・視界遮断

・パニック

・士気崩壊

すべてを同時に起こす。

 古代で最強の“心理兵器”だった。」


山田

「……火、怖い……」


◆終わり:攻城は“文明対文明”の戦い


南條は最後に黒板に書いた。


「都市が強くなる → 兵器も強くなる → 文明が拡大する」


「攻城兵器は、単なる破壊装置ではない。

その背後には、

建築、数学、木工、土木、心理学――

文明のすべてが詰まっている。


次は――


“中世騎士、長弓、クロスボウ、トレビュシェット”。

身分制を破壊した武器たちだ。」


教室がわずかにざわつく。

野本は小さく息を呑んだ。


「――第4章、終わり。」


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