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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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3231/3512

第129章 ■特別補講:火薬の誕生と世界拡散史




(TACTICUS-SIMの講義室。

前章、中世VRでくすぐったさ・痒さ・臭さ地獄に巻き込まれたメンバーが、

クタクタになって椅子に沈んでいる。)


南條(淡々)

「さて、火薬革命に進む前に、

“そもそも火薬はいつ・どこで・誰が発明したのか”

を整理しておきます。」


野田

「先生……今日は爆発とかないですよね……?」


南條

「今日は爆発はしません。」


亀田

「“今日は”って言ったよこの人……!」


──────────────────────────


■第1節 最初の火薬は中国の“医薬品の副産物”


南條が黒板に3つの材料を書き出す。


硝石(KNO₃)

硫黄

木炭


南條

「火薬は、この三つを混ぜるだけでできます。

初めてこの組み合わせが記録に現れるのは

9世紀の中国・唐の時代です。」


●記録:『太上聖祖秘訣』

●用途:不老長寿の薬(道教の錬丹術)


南條

「火薬は“永遠に生きたい”と願った人々が

錬丹術の実験で偶然つくった副産物です。」


富沢

「えっ、不老不死の薬を作ろうとして爆発した……?」


南條

「はい、よく燃えました。」


野田

「淡々と恐ろしい事を……」


──────────────────────────


■第2節 中国での改良 ― “黒火薬”の確立と軍事化


南條

「初期の火薬は“混ぜただけ”で弱かったのですが、

宋(960年〜)で大きく進化します。」


黒板に配合比率の表が描かれる。


●宋代の改良

•配合比率が最適化(硝石70%前後)

•火薬の安定性が増す

•鉄製容器に詰めて“爆裂弾(震天雷)”が誕生

•火槍 → 原始的な火炎投射器

•さらに 火箭(ロケット矢) も登場


南條

「火薬が“兵器”になるプロセスは

① 比率の最適化

② 金属容器

③ 推進力の利用

の三段階です。」


部長

「火薬って、いきなり銃や大砲になるわけじゃないんですね……」


南條

「ええ。最初は“火のついた槍”でした。」


亀田

「火のついた槍……絶対イヤ……」


──────────────────────────


■第3節 火薬の“世界拡散” ― シルクロードを通じて西へ


南條

「火薬は中国で誕生しましたが、

10〜13世紀の間にユーラシアを横断していきます。」


黒板に矢印が描かれる。


中国 → 中央アジア → イスラム世界 → 欧州


●イスラム世界での技術吸収

•早い段階で“完全国産化”

•科学者アル=ラージーらの実験で純度向上

•火薬の製造法が体系化

•金属加工技術と結合し、大型火砲へ発展


●モンゴル帝国が拡散の触媒


南條

「13世紀、モンゴル帝国の征服戦が

火薬技術を西へ運びました。」


野田

「え、モンゴル軍が火薬使ってたんですか?」


南條

「正確に言うと、

征服した国(中国・ペルシア)の従軍工匠が使っていました。」


富沢

「人材の“世界移動”ってことですか?」


南條

「はい。戦争は“技術者の強制移動”でもあります。」


──────────────────────────


■第4節 ヨーロッパへの到達 ― “科学としての火薬”


南條

「14世紀にはヨーロッパで

火縄銃マッチロック

木砲・鉄砲 が出現します。」


●ポイント1:金属加工技術の発達


ヨーロッパは中世末期に金属精錬が急発達していたため

“重い大砲”の製造に最適だった。


●ポイント2:戦争スタイルが“城壁依存”


ゴシック城塞は火砲に弱く、

火薬は急速に“攻城の主役”になる。


●ポイント3:ギルド体系


火薬・砲身・車輪などの製造ギルドが成立し、

品質が急上昇。


南條

「その結果、ヨーロッパでは

“火薬を工学的に扱う”文化が生まれました。

ここが中国・イスラム世界と決定的に違う点です。」


部長

「文化差で技術の方向性が変わるんですね……」


南條

「兵器は“社会の鏡”です。」


──────────────────────────


■第5節 決定的転機:“大砲が城壁を破壊した日”


南條

「火薬の軍事史で最大の事件は――

1453年 コンスタンティノープルの陥落です。」


●オスマン帝国の巨大大砲“バシリカ砲”

•重量:約16トン

•射程:1〜1.5km

•1発の石弾:300〜500kg


南條

「この砲撃で、中世の“城壁文明”は終わります。」


野田

「そんなの、逃げ場なくないですか……?」


南條

「逃げ場はありません。

だから国家は軍隊・税制・要塞化を整備するしかなかった。」


富沢

「火薬って……怖いだけじゃなくて、

社会ぜんぶ変えちゃうんですね……」


南條

「兵器とはいつも“社会システムそのものを作り替える技術”です。」


──────────────────────────


■第6節 質疑応答 ―「火薬はなぜ中国で生まれたのか?」


●野田


「先生、なんで火薬は“中国だけ”で生まれたんですか?」


南條

「材料の入手性と、何より“錬丹術文化”があったからです。

硝石・硫黄・木炭が豊富で、

薬物実験文化が非常に発達していました。」


●富沢


「中国発なのに、なんで“ヨーロッパで”大砲が発展したんですか?」


南條

「理由は三つです。」

1.金属加工技術が突出していた(鉄砲が作りやすい)

2.中世末期の城壁文明が“砲撃に弱い”という構造的事情

3.ギルドが品質管理をして“工業製品化”できた


●亀田


「モンゴルの拡散って、そんなに大きいんですか?」


南條

「“巨大な物流ネットワーク”ができたので、

火薬・製法書・技術者が爆速でユーラシアを移動しました。

いわば“中世のグローバル化”です。」


●部長


「火薬って、良し悪し以前に“不可避”なんですね……」


南條

「ええ。

火薬がなければ、世界史は“中世の延長線”に留まっていたでしょう。」


──────────────────────────


■第7節 講義まとめ ― 火薬は“技術”ではなく“文明の転換点”


南條

「整理します。」


■火薬の発明史まとめ

1.9世紀・中国の錬丹術が発端

2.宋で改良され、黒火薬化(兵器化)

3.シルクロードとモンゴル帝国がユーラシアへ拡散

4.イスラム世界で科学的吸収・精製技術向上

5.欧州で“工学+戦術体系”として再発明

6.1453年に“城壁文明”を破壊 → 近世へ突入


南條

「これで“火薬の誕生と拡散史”は押さえられました。

では次に、

第3章:火薬革命 ― 筋力の時代から化学反応の時代へ

に進みます。」


野田

「……なんか、歴史って怖いですね……」


南條(淡々)

「兵器史とは“文明が何を恐れ、何を欲したか”の記録です。」


富沢

「名言だけど重い!!」


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