表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3225/3477

第123章 城壁都市の歩兵戦と「古代の航空戦力」戦車



(講義室。小泉は前回の板書を残したまま、静かに新たな図を描く。)


小泉悠

「さて、第2章では古代兵器の二つの典型――

“城壁都市の歩兵戦”を生んだメソポタミアと、

“戦車弓兵”という異質な機動戦力を完成させたエジプト――

この対照的な二文明を取り上げます。


実はこの二つは、古代兵器史の“パラレルな出発点”みたいなものです。

片方は“地上に根ざした戦争”、もう片方は“機動力が支配する戦争”。

どちらが優れているかではなく、

その文明が抱える環境や政治制度の違いが、武器体系を分岐させた

という点が重要です。」


(板書:

メソポタミア=城壁都市・歩兵

エジプト=戦車・合成弓)


■ 1. メソポタミア:城壁都市が生む“歩兵中心”の軍事世界


小泉

「メソポタミアは平原地帯で、しかも都市が互いに近接しています。

水利権、農地、交易路……争点はほぼ“都市対都市”の領土問題。

だから戦争は短期で、春〜夏の農閑期に集中した。


すると必然的に、動員されるのは“農民兵”が中心になる。

彼らに複雑な訓練はさせられませんから、

盾+槍の密集歩兵が最も合理的でした。」


(板書:農民兵 → 短期出征 → 槍+盾の単純構造)


「メソポタミア兵の特徴として、

・大型の木盾

・長槍

・青銅の短剣

・皮革の兜

これらが基本装備。

城壁に近づくためには盾が必須であり、

また防御の陣形が重要になる。」


■ 歩兵中心の理由は“地理+社会+工業力”


小泉

「ここで重要なのは、なぜ彼らが騎兵や戦車でなく“歩兵中心”だったのか。

これは地理と社会構造、そして冶金技術が決めています。


メソポタミアは地形が柔らかい沖積平野で、

初期の馬車や戦車が高速で走るのに適していませんでした。

湿地帯も多く、車輪がはまりやすい。

馬もまだ小型で、荷重に弱い。


つまり、騎乗兵器を主力化できる条件が整っていなかったんですね。


結果として、

・歩兵

・弓兵

・投石兵

・初期戦車(運搬用に近い)

といった地味だが安定した兵力構成になった。」


■ 城壁都市がつくる“攻城戦”の軍事革命


小泉

「そしてメソポタミア戦争の核心は“城壁”です。


都市が城壁を持つと、戦争は必然的に攻城戦になる。

そこで破城槌、梯子、投石機が早期に生まれる。

攻城戦は非常にコストがかかるため、

“戦争の長期化”と“王権の強化”がセットで進む。


城壁都市に攻め込むには膨大な資源が必要で、

これが国家の中央集権化を押し上げます。


つまり、メソポタミアの兵器体系は、

戦争 → 城壁 → 攻城兵器 → 国家権力の増大

という連鎖の中で生まれたものなんです。」


■ 2. 古代エジプト:戦車+合成弓=“古代の航空戦力”


(小泉は次のページに戦車の図を描く。)


小泉

「ではエジプト。

こちらはメソポタミアとはまったく違う方向に進みました。


エジプトの軍事は“戦車弓兵”の文明です。

馬2頭で牽引する軽量戦車に、

合成弓(複合弓)を搭載した兵が乗る。


この組み合わせは古代としては異例の破壊力で、

簡単に言えば “地上を走る航空戦力” と呼んでも良い。」


(板書:

合成弓=高張力・長射程

戦車=高速・軽量

→ 機動火力)


「合成弓は反り返った構造で、木・角・腱を積層した複合素材。

短い弓でも強力な張力を得られ、射程150〜200mを達成していました。」


■ エジプトで戦車が強くなった“環境的理由”


小泉

「なぜエジプトが戦車に特化したかというと、

これはナイル川周辺の 地形と環境が完全に戦車向き だったからです。


ナイル流域は

・平坦

・障害物が少ない

・乾燥している

・戦車の足を取る泥が少ない

という“車輪兵器に最適な地形”でした。


そこに合成弓という強力な遠距離火力が組み合わさると、

軸となる戦術は必然的に

高速で接近しながら弓を打ち込み、接触前に離脱する打撃戦術

になる。」


■ 戦車陣形=古代の空爆運用


小泉

「エジプト軍の戦車は“輪形陣”と呼ばれる旋回隊形を多用しました。

大きく円を描きながら走行し、常に矢を降らせる。

これは現代の航空機が“旋回しながら空爆する”戦法に極めて近い。


もちろん装甲は弱いので、接触戦には不向きですが、

相手が歩兵中心なら圧倒的な機動火力を持つことになります。」


■ 対ヒッタイト戦:戦車 vs 戦車の大規模戦


小泉

「この戦車戦力が本格的に試されたのが、

ヒッタイトとのカデシュの戦い(紀元前1274年)。

古代最大規模の戦車戦であり、

数千台の戦車が正面衝突したと言われます。


ただしここで重要なのは、

“戦車の運用思想”が文明ごとに異なることです。


・エジプト:軽量・高速・射撃中心

・ヒッタイト:重量型・衝突力中心


つまり兵器は同じでも、

文明ごとの地理・文化・政治が運用思想を変える。」


──────────────────────


■ 質疑応答パート


──────────────────────


野田(小声)

「エジプトの戦車って、そんなに“航空戦力”みたいなものだったんですか?」


小泉

「比喩としては正確ですね。

現代の航空優勢が陸戦の勝敗を左右するように、

古代では高速機動力を持つ戦車弓兵が戦場の決定権を握った。


もちろん、地形の制約を受ける点は現代の航空戦力とは違いますが、

“接触前の火力投射”という発想は近いものがあります。」


富沢(筆記しながら)

「戦車ってロマンがあるけど、歩兵の方が多く見えるのはなぜ?」


小泉

「これは単純で、歩兵の方が“維持費が安い”からです。

戦車は燃費も悪いし、馬の維持にもコストがかかる。

そのうえ整地された地形でしか力を発揮しない。


だから、戦車中心の軍隊が成立するのは、

国家が十分な富を持ち、なおかつ地理的に恵まれている場合に限られる。」


亀田(腕を組んで)

「メソポタミアは攻城戦、エジプトは戦車戦……

なんか文明ごとに“戦争の得意種目”が違う感じ?」


小泉

「その通りです。

文明の立地条件が、その文明にとって最も合理的な兵器体系を生む。

結果として、互いの“戦争の型”は大きく異なる。」


部長(やや興奮気味)

「じゃあ、もしエジプトがメソポタミアと戦ったらどっちが勝つんです?」


小泉(淡々と)

「状況依存です。

平原で開戦すればエジプト戦車が有利。

城壁都市の攻防になればメソポタミア歩兵が有利。


つまり、

『最強の兵器は地形と状況によって変わる』

というのが古代軍事の基本原則です。」


(静かな間を置いて)


「兵器は環境によって“最適解”が変わる。

それこそが古代軍事の面白さなんです。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ