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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第122章 本質としての古代兵器――材料・社会・戦術の三層構造


(講義室。ホワイトボードの前に立ち、静かに書き始める。)


小泉悠

「今日は、古代兵器についてお話しします。

ただし“武器そのもの”の形状や強さの話ではなく、

もっと根本的な『兵器が成立する条件』を扱います。


古代の武器というのは、見た目の派手さとは裏腹に、

その背後にある 材料技術、社会制度、戦術体系 が合わさらないと機能しません。

この三つをセットで見ないと、古代の戦争は理解できません。


いまボードに書きましたが、古代兵器は大きく六つに分けられます。」


(板書)

1.打撃武器

2.刃物系

3.投擲兵器

4.弓矢

5.戦車

6.攻城兵器


「しかし、これらを“単体の武器”として見ても意味がない。

なぜなら、それぞれが生まれる背景には 文明固有の構造的事情 があるからです。


たとえば青銅と鉄。

これを“強い金属に変わった”と理解するのは半分正しいのですが、本質はそこではありません。

鉄が普及すると、武器を作れる量が青銅より何倍にも増える。

結果として、動員できる兵士の数そのものが変わるんです。


国家の軍事力というのは、突き詰めると『兵器×人数×運用』の掛け算ですから、

材料技術の差はそのまま政治体制に跳ね返ります。」


(静かに板書を付け加える)


●材料技術 → 生産量

●生産量 → 動員規模

●動員規模 → 軍事制度

●軍事制度 → 国家構造


「つまり、古代兵器を見るというのは、

同時に『国家のあり方そのもの』を見るということなんですね。


その象徴が“城壁都市の誕生”です。


城壁ができれば、戦争は一気に“攻城戦”へとシフトする。

すると破城槌や投石機が生まれ、攻城専門の工兵が必要になる。

防御側も城壁を強化し、溝を掘り、見張り台を作る。


この攻防の連鎖が、都市国家を強くし、権力を集中させ、

やがて広域帝国が誕生する素地になるわけです。


武器の形が歴史を動かすのではなく、

武器が必要になる“状況”を作り出すのが、政治と社会です。」


(小泉は一度区切り、板書を見渡す)


「古代兵器の理解で重要なのは、この“相互関連性”です。

兵器は独立して進化しない。

社会の問題に合わせて、必要な形を取らざるを得ない。


では次に、この『三層構造』がどのように文明別の兵器体系を形づくるのか、

メソポタミア、エジプト、ギリシア、ローマ、中華、ステップ――

という順で具体例を話します。

先に質疑を受けましょう。」


──────────────────────────


■ 質疑応答パート


──────────────────────────


野田(控えめに挙手)

「あの……兵器よりも社会構造の方が先なんですか?

“槍が強かったから勝った”とか、そういう話じゃないんです?」


小泉

「良い質問です。

武器の強さが戦いを左右するのは事実ですが、

“強い武器を大量に作れる社会”が先に存在します。


たとえばメソポタミアの城壁都市では、

都市間の争いが頻発する構造がまずあって、

そのうえで大盾と槍の歩兵が体系化される。


逆に、遊牧民は広い草原で機動戦が主ですから、

そもそも『重い盾を持つ歩兵』という発想に至らない。


つまり、武器の形は社会の事情を映したものなんです。」


富沢(メモを取りながら)

「青銅から鉄に変わったのって、そんなに大事件だったんですか?

見た目そんなに変わらなそうですけど……」


小泉

「こちらも核心です。


青銅(銅+錫)は原料が希少で、

国家が資源を独占しないと大量生産できない。

だから青銅時代は、ある意味“国家の武器独占”が強化される時代でした。


鉄はそこまで希少ではない。

つまり、武器が“量で勝負できる時代”になる。


結果として、

大量動員が可能な国家=帝国が成立する条件が整った

ということです。」


亀田(腕を組みつつ)

「城壁がそんなに重要なら、城壁を壊す武器が生まれるのは当然として……

戦争そのものがどう変わるんですか?」


小泉

「城壁の存在は“戦争の性質”を変えます。


・攻城戦

・包囲戦

・補給線の遮断

・長期戦

・工兵の制度化

・戦車の運用の制限


こうして、都市を落とすには膨大な労力が必要になる。

一方で守る側は、城壁の背後で人口と富を蓄え、

政治権力を集中させることができる。


城壁が生まれると、軍事・政治・経済がすべて“都市中心”になる。

これは古代文明共通の構造です。」


部長(やや前のめり)

「武器の話って、もっと“どれが強かったか”を語りがちですけど、

小泉さんの話だと“文明の鏡”みたいな…そういう感じですか?」


小泉

「おっしゃる通りです。


古代兵器の本質は、文明の“要求”に応えて生まれている点にあります。


・水利権を争う→攻城兵器

・平原で戦う→戦車・合成弓

・市民が自前で装備→重装歩兵・政治参加

・遊牧民→騎射

・大国→弩の大量生産


このように、武器の違いには必ず“文明固有の事情”があるんです。


ですので、古代兵器を理解するとは、

その文明が抱えている問題や、必要としている戦争の形を理解する、

ということに等しいわけです。」


──────────────────────────


小泉

「では次の章では、

具体的に“メソポタミアとエジプト”という二つの文明を取り上げ、

城壁都市と戦車・合成弓という、

古代兵器の二大モデルがどのように生まれたかを説明します。


この二つは古代兵器史の“基礎モデル”といえる存在なので、

まずはそこから紐解いていきましょう。」


(講義終了)


──────────────────────────



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