表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3218/3522

第116章 《開戦:范陽軍挙兵と唐都の動揺》




(特番「安史の乱 755 LIVE」/第一章 )


(暗転。夜の暇つぶしサークル部室。長机の上に古びた地図と紙コップが散乱している。

突然、緊急速報のジングルが鳴る。)


アナウンサー(落ち着いた声)

「こちら“歴史速報チャンネル”。ただいま唐帝国北辺、范陽より緊急ニュースです。

 節度使・安禄山による大規模軍事行動の兆候が確認されました。」


(カメラが切り替わり、部室がそのまま臨時スタジオになった光景が映る。)


◆スタジオ:暇つぶしサークル部室(臨時特設スタジオ)


小宮部長(地図を抱えたまま硬直)

「えっ……反乱とか、そんなの今から? 夜ですよ?」


橋本副部長(地図を必死に貼っている)

「はい部長、とりあえず“ここらへん”が范陽です。たぶん。いや違うかも……」


(地図がずれて貼られ、河北省がなぜかチベットに重なっている。)


山田ディレクター

「橋本さん、その地図だと安禄山が海渡ってますよ。直して。」


(ため息をつきながら、スタッフが地図を直し始める。)


アナウンサー

「それでは現地の野本リポーターにつなぎます。野本さん、聞こえますか?」


◆現地中継:范陽城外・軍営前(夜明け前の暗い空)


(風がうなり、旗が激しくはためく音。

 野本リポーターが震え気味に立っている。)


野本リポーター

「は、はい、こちら范陽です。

 あの、なんというか……あたり一面、兵士と馬と――謎の緊張感で満たされています。

 いま私の後ろで、安禄山軍が“完全武装”の状態に入りました」


(背後を、契丹の騎馬隊が矢筒を揺らしながら駆け抜ける。)


富山(音声)

「ひゃっ、馬が近いっ! 野本さん、下がってください!」


野本

「だ、だいじょうぶです!……多分!」


(カメラの亀山がズーム。映るのは、多民族混成の武装集団。

ソグド人の弓騎、突厥系の槍騎、漢人の雑号将、さらには胡服の歩兵まで。)


野本

「こちら、安禄山軍の特徴は“中央とは別世界の軍制”です。

 彼らは唐帝国の国軍というより、**“安禄山個人の国家”**に近い構造です。

 兵士たちが示す忠誠は唐の皇帝ではなく……“安禄山そのもの”。」


富山(音声)

「野本さん、今ちょっとカッコよかったっす」


◆スタジオ:南條講師の最初の解説


(スタジオが映る。南條講師は椅子に深く腰をかけ、淡々と語り始める。)


南條講師

「この時代、節度使は国境の防衛を任されていましたが、

 同時に 徴税権・徴兵権・軍事独断権 を持ちました。

 つまり地方が一つの軍事経済圏として独立し始めたわけです。」


小宮部長

「じゃあ……そりゃあ反乱も起きますよね。だって全部自分でできるんですよね?」


南條講師

「ええ。しかも范陽は交易都市で富が集中していた。

 安禄山は“金と兵力を同時に持つ男”でした。」


橋本副部長

「店長が売上もレジも人事も勝手にできる状態だ……。そりゃ独立しますよね……」


(スタジオに妙な納得が広がる。)


◆現地:軍の動きをドローンで捉える


(空撮へ切り替わる。橋本副部長が操縦しているが、画面が少し揺れている。)


橋本副部長(無線)

「すみません、風が強くて……でも隊列がよく見えます!」


(画面には、弓兵、槍騎兵、歩兵が縦横に動き、軍旗が翻る。

 そのスケールは“国家の反乱”というより“巨大な機動国家”という迫力。)


野本

「ご覧ください。

 これは単なる反乱ではありません。“国家同士の戦争”の軍規模です。

 彼らはこれから、洛陽へ――そして長安へ向け進軍を開始する見込みです。」


富山

「野本さん、後ろ! 槍が! 槍が近いです!」


(槍騎兵がすれすれを通り、富山が叫ぶが、野本は意外と冷静。)


野本

「大丈夫です、彼らはこちらに興味がないようです……今のところは。」


◆スタジオ:唐都・長安の街角インタビュー映像(事前素材)


(重子が撮った「市民の声」の映像が再生される。)


・「最近の税、ほんとにきついんですよ……」

・「節度使の人たち、怖くて近づけません」

・「京官たちは何してるの?」

・「政治、全部内輪揉めって聞いたよ?」


(街は繁栄しているようで、“ひびの走った繁栄”が透けて見える。)


南條講師

「この状況では、反乱が起きた瞬間、行政が即座に麻痺します。

 唐は均田制の崩壊と戸籍逃れで、税制がもう限界だったのです。」


小宮部長

「……つまり、国が中から腐っていた?」


南條講師

「はい。外からの撃力より、内部の脆さの方が致命的です。」


◆現地:安禄山の軍旗が掲げられる瞬間


(再び范陽。夜明けの曙光が地平に広がる。

 その中央で、巨大な軍旗がゆっくりと掲げられる。)


野本(震える声)

「……いま! 軍旗が上がりました!

 これは、唐への正式な挙兵を意味します!」


(兵士たちが一斉に雄叫びを上げ、馬がいななき、軍列が動き出す。)


富山

「うわ……風圧がすごい……!」


亀山カメラマン

「ピント合わない! もっとゆっくり走ってくれっ!」


(カメラが強引にズーム。兵士の表情には恐れもなく、ただ“破壊を目指す決意”だけが映る。)


◆スタジオ:緊張する中の微妙なズレ


アナウンサー

「安禄山軍、ついに洛陽へ向け南下を開始しました。」


(沈黙。スタッフ全員が緊張した顔になる。)


山田ディレクター

「……これ、今日で終わる取材じゃないですね。」


重子(技術)

「回線の持ちが心配なんですけど……唐代の衛星ってどこ……?」


小宮部長

「あの、広告入ります?」


全員

「入らないよ!!!」


(ただその“ズレた一言”で、重い空気がほんの少しだけ和らぐ。)


◆締め:第一章のまとめ(スタジオ)


(南條講師が、モニターに映る長安・洛陽・范陽を見つめながら口を開く。)


南條講師

「安禄山の挙兵は、

 帝国の“傷口に刺さった最後の針”に過ぎません。

 唐はすでに、制度と経済と軍事のバランスが崩壊寸前でした。

 今日、范陽で上がった一枚の軍旗は、

 大帝国が落ちていく音を告げる合図なのです。」


(部室に、静かな緊張が戻る。)


アナウンサー

「以上、第一章《開戦:范陽軍挙兵と唐都の動揺》をお送りしました。

 第二章では、洛陽陥落の現地映像をお届けします。」


(暗転。)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ