第115章 未公開映像編:誰も語らなかった“あの瞬間”」
編集室――。
そこは、本編以上に“戦場の記憶”が漂う空間だった。
机の上には積み上がったハードディスク。
総容量、10テラバイト。
そのすべてに、
“アレクサンドロス遠征の全ルート”が詰まっている。
今日は、その中から“未公開映像”を
野本・富山・亀山・小宮部長・橋本副部長が
スタジオで振り返る特別回だ。
大きなモニターの前で、
山田アナウンサーが緊張しながら番組を開始した。
■オープニング
山田
「本日は特別編、
“未公開映像:アレクサンドロス遠征を見た取材班だけが知る真実”
をお送りします」
野本
「……あれ、放送していいの……?」
富山
「いや、絶対怒られますよ……上に……」
亀山
「怒られてもほら、歴史のためだから」
小宮部長
「そうよ。怒られるのは慣れてるわ」
橋本副部長
「私は怒られたくないですけどね……」
山田
「(気持ち分かる……)」
重子
「資料価値があるものばかりなので、
むしろ公開しない方が歴史に対する背信です」
山田
「強い……!」
■1.未公開映像:イッソス前夜
「アレクサンドロス、愛馬ブケパロスに話しかける」
映像が流れる。
夕暮れ。
イッソス会戦の決戦前夜。
アレクサンドロスが、馬の首を軽く撫でながら呟いている。
アレクサンドロス(古代語)
『……明日も頼む。
共に走り、共に進む。
我を裏切ったことは一度もない』
馬は鼻を鳴らして応える。
野本
「これ……完全に“相棒”ですよね……」
富山
「俺この時、泣きそうだったっす」
亀山
「二人――じゃなくて、一人と一頭の関係が深いのよね」
橋本副部長
「ドローンで上から撮ってたんですが……
近距離で馬があんな表情するとは思いませんでした」
小宮部長
「カットして正解よ。
放送したら“愛馬特集”になるもの」
山田
「見たい気もしますけど……!」
重子
「歴史家としても非常に重要な映像です。
彼は征服者である前に“騎士”だったという証拠です。」
■2.未公開映像:ティルス攻囲戦
「海に落ちた投石機パーツを拾う兵士」
モニターには、海上が映る。
攻城塔の部品が落ち、
兵士が甲冑のまま海に入って拾っている。
兵士
『これ高いんだぞぉぉぉ! 落としたら怒られるんだぞぉぉぉ!』
野本
「……なんかすごい“現場クレーム”感……!」
富山
「いや、あれ木材でも希少なんですよ。
副部長が言ってたけど、海に落ちると乾燥も大変だって」
橋本副部長
「はい。古代は資材の再利用が命なので」
亀山
「命がけで“部品”拾うって……現代の現場も似てるわね」
小宮部長
「リアルすぎて逆に放送できなかったのよ。
“古代のブラック労働”認定されるから」
山田
「それは……まぁ……」
重子
「兵士の苦労はどの時代も変わりませんね」
■3.未公開映像:ガウガメラの舞台裏
「戦象に怖がられる調教師」
映像が切り替わる。
巨大な象が兵士たちに囲まれている。
だが、象は一人の調教師から逃げようとしている。
調教師
『ちょ、ちょっと待て! なんでお前が逃げるんだよ!
お前が戦うんだっての!!』
象
「パオォオオオ!!!!(明確にイヤがってる)」
富山
「象に嫌われてんじゃん……!」
野本
「この象、戦う気ゼロですよ……!?」
亀山
「人も動物も、イヤなものはイヤなのよ」
橋本副部長
「近づこうとしたら、完全に“敵を見る目”をされました」
小宮部長
「このカット、めちゃくちゃ好きなんだけど……
戦争の緊張感ゼロになるから没にしたわ」
山田
「でも、戦争の裏側ってこういうものですよね……」
重子
「動物も“戦争の意思”は持たない。
それが逆に胸を突きますね。」
■4.未公開映像:ガウガメラ戦直前
「戦車隊の“やる気のなさ”」
映像には、ペルシアの戦車部隊が映る。
しかし兵士たちは……
戦車兵A
『今日……絶対負けるよな……?』
戦車兵B
『うん……馬のやる気もないし……俺もないし……』
馬
「ブルル……(全然行きたくない)」
富山
「いや……やる気なさすぎでしょ!?」
野本
「戦争前にそのテンションなんですか!?」
亀山
「正直者よね」
小宮部長
「これオンエアしたらペルシア軍の名誉が死ぬでしょ」
山田
「確かに……!」
重子
「士気は戦争の本質ですが……
これは“悲しすぎるリアル”ですね」
■5.未公開映像:バビロン王宮
「医師団の沈黙」
映像には、
アレクサンドロスの寝室の外で
医師たちが肩を落とす姿が映っている。
医師A
『……もう、できることはない』
医師B
『神々は……沈黙している……』
医師C
『……我々は敗北したのだな……』
野本
「本編では見せなかったけど……
あの人たちの顔、忘れられないんです……」
富山
「“誰も助けられない”って顔でしたよね……」
亀山
「戦場では、医者が一番“敗北”を見るのよ」
橋本副部長
「空撮で見えない、地上の重さですよね……」
小宮部長
「これ流したら……重すぎて番組のバランスが崩れるのよ」
重子
「だが史実としては最も価値のある映像のひとつです。
名医たちでさえ救えなかった。それが“歴史の重さ”です。」
■6.未公開映像:クルーの裏側
●(1)野本がマイクを落とす
ティルスの海岸で、野本がマイクを落とす。
野本
『ひゃああーーーーー!!!!』
亀山
『はい、拾ったわよ〜』
富山
「地味だけど神シーン」
●(2)富山、ドローンに追いかけられる
富山がドローンの自動追尾設定を誤って逃げ回る。
富山
『なんで俺を追うんだよ!!』
橋本副部長
『設定ミスです!!すみません!!』
●(3)象に威嚇される副部長
巨大な象に“完全に目をつけられた”橋本副部長が走る。
橋本副部長
『近い近い近い近い近い!!!!!!』
富山
「副部長、あれ伝説っすよ……」
●(4)小宮部長、古代兵士に怒られる
小宮部長
『もっと右から動いて! 逆光で顔が見えないのよ!!』
古代兵士
『今戦ってるんですけど!?』
小宮部長
『だからよ!!!』
野本
「無敵だ……」
■7.編集室――10TBをすべて見終えた後
映像がすべて終わり、
編集室は、数秒間の完全な静寂に包まれた。
誰も言葉を発さない。
笑いも涙も混ざった“余韻の沈黙”。
その中で、
野本がぽつりと呟いた。
「……私たち……
本当に、歴史の“裏”まで見てきたんですね……」
富山
「うん……
あれ撮れたの……一生の誇りっす……」
亀山
「でも……一生の荷物でもあるわね……」
橋本副部長
「そうですね……
空から見た死は……忘れません」
小宮部長
「皆がいたから……
10TBの地獄も、乗り越えられたわね」
重子
「――これで歴史は、ひとつ正しく“保存”されました。
あなたたちは、記録者であると同時に、
この時代の“証人”です」
山田
「……素敵な言葉ですね……」
重子
「事実です。
歴史は、見る者によって変わる。
あなたたちによって、過去は“現実”になったのです」
照明が落ち、番組は静かに幕を閉じた。




