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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第109章 「イッソス会戦:皇帝ダレイオスを追うドローン」



――前333年・急峻な峡谷で“歴史の逃走劇”が始まる――


前334年のグラニコス川から一年。

私たちは、またしても“前333年の地中海東岸”にいた。

場所はイッソス平原……だが、その実態は“平原と言いつつほぼ峡谷”である。


野本の足元には、大小さまざまな岩が転がり、風は乾いて熱い。

どう考えても、テレビスタッフが走り回る土地ではない。


「えー……視聴者の皆さま。本日は“イッソス会戦”の現場から、生中継をお送りします」


カメラを抱え直しながら、富山が苦い顔をする。


「野本さん、さっきから“今日も戦争かぁ……”って顔してるけど、もう少しシャキッと」


「いや、シャキッととか言われても……前回、槍が私の横に刺さったの覚えてます?」


「覚えてますよ。あれ、地上波的に最高の絵でした」


「富山さん、さらっとひどい!」


そこへ、タブレット(時空転移でもなぜか動く)を片手に、小宮部長が近づく。


「今日は勝負よ。

 “世界史最大級の皇帝逃走シーン”が撮れるかもしれないんだから」


「逃走前提なんですか!?」


「史実よ、史実」


美術肌の女性ディレクターは、戦争でさえ“素材”として扱うプロ根性を曲げない。


丘の上で、ドローンを整備していた橋本副部長が手を挙げた。


「全体調整完了。ドローン3機、飛行準備いいです」


「3機!?」


野本が驚く。

前回より増えている。


「今回は大規模戦なので、俯瞰撮影+接写+バックアップで3機体制にしました」


「副部長……その冷静さ、尊敬しますけど……戦場なんですよ……?」


「戦場だからこそ、マルチカメラです」


言ってる意味は正しいが、状況に対して精神が強すぎる。


その時、地鳴りがした。


ズズズズズズ……!


峡谷の先で、砂煙が上がり、青銅の光が点滅している。


亀山が耳を澄ませた。


「馬の数……相当ね。あれだけの蹄の音が重なると、地震みたいになるのよ」


「亀山さん、何でそんな経験者みたいなんです……?」


「昔、お祭りで神輿が走る音が似てたのよ」


戦場を“お祭り”比喩で語る中年女性の強さ。


やがて砂煙が薄れ、姿が現れた。


――ペルシア軍だ。


輝く鎧。

煌びやかな馬車。

軍旗が風に翻り、陽光を反射して金色に光る。


富山「おおお……数が桁違い……!」


野本「“美しさで殴ってくる軍隊”ってこういうことですか……?」


亀山「そりゃ帝国だもの。財政規模が違うわよ」


小宮部長がメモを取りながら言う。


「馬車の金装飾……美しい……あれは絶対ズームだわ」


「部長、アート目線はほどほどに……」


その中心に、美しい馬車があった。


金の飾り、深紅の布。

車輪の周りには護衛の兵士たち。


橋本副部長「ドローン1号、皇帝エリアにズームします」


富山「皇帝エリアって……ダレイオス本人ってこと!?」


野本「うわっ……本当にいる……!」


そう、そこには――

この巨大帝国の王、ダレイオス3世がいた。


まだ若い。

威厳こそあるが、目に緊張が宿る。


山田スタジオ

「これが……あのダレイオス3世……!?」


重子

「はい。史料だと“気品ある美貌”とされてますね。

 ただし戦争になると、とても忙しい人です」


山田「忙しい……?」


重子「逃げるので」


山田「逃げるって言っちゃった!?」


峡谷の反対側、少し低地になった場所に、

青いマントが揺れた。


アレクサンドロスだ。


富山「うわ、アレクサンドロスまた最前線ですよ!」


野本「普通に考えて、王様がここにいるのが一番危険ですよね?」


亀山「そうよ。彼、何回も傷だらけになってるから」


小宮部長「傷の跡まで綺麗に撮れないかしら……?」


「撮れません!」


戦場は、空気が張り詰めたゴムのように静まり……

次の瞬間、破裂した。


「――っ来る!」


アレクサンドロス騎兵が、川を越えて突っ込んだ。

槍が陽光を裂き、馬が岩を砕く。


富山「ぎゃー! これ、近い近い近い!!」


亀山「落ち着きなさい。はい、野本さん、声出して!」


野本「えっ!? えぇっと……!

 ただいま、アレクサンドロス軍が……中央突破を開始しました……!

 馬の脚、速い速い速い……!」


富山「実況が“速い”連呼だ……!」


橋本副部長の声が入る。


「ドローン1号、アレクサンドロス騎兵を追跡。2号はペルシア戦車群へ。3号は皇帝馬車を固定。」


野本「まさか古代戦争で“ドローン三点撮影”を見ることになるとは……」


富山「全世界初ですよ……」


突然、地面に衝撃。


ドドドドドッ!


ペルシアの戦車部隊が、

巨大な轍を描いて突撃してきた。


馬たちの装甲には刃がついており、走るたびに地面を刻む。


富山「やばいやばいやばい、あれ刃ついてるじゃん!?」


亀山「刃がついてるから危ないのよ」


富山「当たり前のこと言わないで!」


野本は震えながら、声を絞る。


「ペルシア戦車……これは……“質量と速度で人間を轢き殺す”武器……」


重子スタジオ

「野本さん、正しいです。刃付き戦車は、古代で最も恐れられた兵器のひとつ」


山田スタジオ

「冷静な解説……! え、怖……!」


その時、ドローン3号の映像がスタジオに切り替わる。


――皇帝ダレイオスの馬車だ。


彼は立ち上がり、何かを叫んでいた。


富山「うわ……皇帝、焦ってますよ!」


野本「……部長、これ撮ってどうするんですか……」


小宮部長「“焦る皇帝”なんて歴史的に超レアよ! もっと寄せて!」


橋本副部長が操作を細かく入れる。


野本「寄せるんだ……!」


そして――

アレクサンドロス騎兵が、

中央でペルシア軍を割った。


重子スタジオ

「あ……突破しましたね……これ、皇帝側が危険です」


山田

「え、危険って……具体的には?」


重子

「ここから“皇帝逃走コース”が始まります」


山田

「はっきり言った!?」


その瞬間――

ダレイオス3世の馬車が動いた。


一気に反転し、谷の出口へ向けて疾走する。


富山「うわ逃げた!! 皇帝、全力逃走!!」


野本「あ、あの……これ中継していいんですか!? 帝国最高権力者の退却ですよ!?」


亀山「いいのよ。どうせ史書にも書かれるんだから」


小宮部長「ズーム! ズームよ富山くん!」


「僕じゃなくて副部長の仕事です!」


ドローンが皇帝馬車を追う。

“逃走劇”は、風を切りながら進む馬車の後ろ姿と、

その前で戦況が崩れ落ちていく様子を鮮烈に映し出した。


やがて、ペルシア軍は総崩れとなった。


谷に響く悲鳴。

崩れた部隊。

負傷した兵士たち。


野本は、しばらく言葉を紡げずにいた。


「……思ってたより……戦争って、“崩れ落ちる音”なんですね……」


富山「……野本さんまた詩人モードに……」


亀山「でも、わかるわ。戦争は“砕ける形”が大事なの」


小宮部長「崩れ落ちる瞬間のカット、保存するわ」


「保存すんな!」


中継を終えたあと、丘の下で野本は膝をついた。


「……皇帝が逃げるのって、こんなにも……“人間”なんですね……」


富山が軽く肩を叩く。


「ま、どんな権力者でも、怖いもんは怖いっすよ」


亀山が頷く。


「だから人は逃げるの。生きるためにね」


その言葉だけは、時代も戦場も超えて響いた。


そして、小宮部長が一言。


「さ、次はティルスの攻囲戦よ。海の上の“超巨大要塞”。

 準備よろしく!」


全員

「だから“よろしく”じゃないーーーー!!」


砂埃の中、クルーの絶望と覚悟が混ざり合って響いた。


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