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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン23

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第106章 アテネ陥落 ― ロング・ウォールが崩れる日」



―― 古代最大の都市国家の終焉を、テレビクルーが記録した


(紀元前404年・アテネ。

光のない朝。灰色の空に、ひんやりした風が吹いている。

街に人影はほとんどなく、家々の扉は固く閉ざされている。)


■1. “勝利の鐘が鳴らない朝”を歩く取材班


(亀山のカメラがゆっくりと路地を進む。

瓦礫、倒れた壺、破れた布……。

生気のない都市が映る。)


亀山カメラ

「……静かすぎる……。

ここ、本当に“民主政の都”だったんですか……?」


富山(音声)

「声……声が反響するくらい誰もいない……。

なんか幽霊の街みたい……。」


(野本、マイクを握り、淡々と語り始める)


野本リポーター

「視聴者のみなさん。

アテネは、いま食糧が尽き、

市民の多くは飢餓状態に追い込まれています。

港はスパルタ海軍に封鎖され、

補給は完全に断たれました。」


(背後で、重子が小さくうめく)


重子(ドローン操縦)

「……もうやだ……この空気……精神ゲージが……0……

カフェイン……カフェインがほしい……」


橋本副部長(中継技術)

「古代にカフェインないから!飲んだら時空壊れるから!!」


■2. 飢饉の列に並ぶ市民と、崩れゆく“誇り”


(配給所。

市民たちが細い列をつくり、ぼろぼろの服を着て震えている。)


アテネ市民(老人)

「……何も……何も残ってない……」


アテネ市民(母親)

「パンを……パンを少しだけでいい……子どもに……」


(野本がそっと近づく)


野本

「お子さんの体調は?」


母親

「……弱ってます。

主人は……前線に行ったきり……」


(母親が涙をこぼす)


富山(小声)

「……もう……言葉が出ない……」


小宮部長ディレクター

「亀山さん……できるだけ優しく撮ってあげて……

記録は残すけど……傷つけたくない……」


(部長の声は震えている)


■3. アテネ議会前 ― “降伏交渉”を中継


(アテネ議会の前に異様な人だかりができている。

その中心に、スパルタ側の使者が立つ。)


野本(解説)

「現在、アテネとスパルタが“降伏条件”を交渉している模様です。

条件は——

・ロング・ウォールの破壊

・アテネ艦隊のほぼ全隻の没収

・民主政の停止

これにより、アテネは“完全な敗北”を認めることになります。」


亀山(小声)

「ロング・ウォールって、あの……ペリクレスが築いた……あの巨大な城壁……?」


野本

「はい。

アテネが海に生き、海で戦った証です。」


富山

「……それ、壊すの……?」


(沈黙が落ちる)


■4. “ロング・ウォール破壊”の瞬間を生中継


(巨大な石壁の前にスパルタ兵と作業員が集合。

大きな掛け声とともに、槌が振り下ろされる。)


ゴオォォォン!!!


(城壁の一部が崩れ、砂埃が舞う)


富山(悲鳴に近い声)

「壊れた……!ほんとに壊してる……!」


重子(泣き声)

「あの……アテネの象徴が……!」


(亀山が、石が崩れる様子をアップで撮る。

その犠牲的な姿勢に、部長が呟く。)


小宮部長

「……芸術だ……

でも……悲しい……

構造美が……崩れていく……」


橋本副部長

「いや部長……それはそれで複雑な感情でしょうよ……!」


(カメラは城壁の瓦礫を映し続ける)


野本ナレーション

「アテネの“自由への道”は、

いま瓦礫となって消えました。」


■5. スパルタの勝利宣言と、アテネ市民の沈黙


(中央広場。

スパルタの将軍リュサンドロスが、短い勝利宣言を行う。)


リュサンドロス(スパルタ将軍)

「アテネは降伏した。

今日より、この地に平和と秩序が戻る。」


(その言葉に、アテネ市民は誰も歓声を上げない。

ただ膝をつく者、泣き崩れる者、静かに空を見る者。)


亀山

「……反応……ないですね……誰も……」


富山

「そりゃそうだよ……“自由の都”が終わったんだもん……」


重子

「……この空気、もう無理……

帰りたい……喫茶店でアイスコーヒー飲みたい……」


■6. 取材班、それぞれの“心の揺らぎ”


(クルーは広場の端に集まり、疲れ切って座り込む)


亀山

「……こんな都市の終わりを見ることになるなんて……。

アテネって……文明の象徴じゃなかったんですか……?」


野本

「文明でも、

戦略を誤り、

政治を誤り、

判断を誤れば——

都市は滅びます。」


(全員が息を呑む)


富山

「……なんか……野本さん……

ここぞという時、言葉の破壊力がすごい……。」


橋本副部長

「でも、真理だよね……戦争って……勝ってる時は気づかないけど、

負け始めると、一気に全部崩れる……。」


小宮部長

「芸術もそうですよ……。

完璧に見える構造は、

ひとつの破綻で一気に崩れる……」


重子

「部長のメンタルも崩れないで……」


■7. 現代スタジオ ― 歴史的総括(山田)


(スタジオに切り替わり、山田が静かに語る。)


山田

「アテネ陥落は、古代ギリシアの政治モデル“民主政”の大きな危機でした。

しかし同時に、この崩壊から、

哲学・倫理学・政治学が大きく発展します。


ソクラテスの裁判、プラトンの思想、アリストテレスの体系化——

全ては“アテネが負けたからこそ”生まれたのです。」


(VTRの向こうで富山のツッコミ)


富山

「山田くん、最後まで淡々と歴史語るのやめて!

感情どこいったのよ!!」


山田(真顔)

「NHKなので。」


■8. 最後の中継 ― “都市国家の終わり”を見送る


(アテネの丘の上に立つパルテノン神殿を、夕暮れが照らす。

クルー全員が黙ってその光景を見つめる。)


野本ナレーション

「アテネは敗れました。

しかし、その文化、思想、哲学は滅びませんでした。

ロング・ウォールが崩れ、

民主政が潰えた瞬間にこそ——

新たな文明の芽が育ちはじめたのです。」


(亀山、カメラを下ろす)


亀山

「……帰りますか。」


重子

「帰ろ……ドローン充電ないし……」


橋本副部長

「ケーブルも全部ボロボロだし……」


富山

「もう喋る気力も……ない……」


小宮部長しみじみ

「……でも、最高のロケでした……。」


全員

「そこ!?」


(フェードアウト)


■エンディング・ナレーション(野本)


「ペロポネソス戦争——

勝者も敗者も、

歴史に残るのは“人間の選択”である。」


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