第83章 出発命令 ― 前夜(D-150)
防衛省地下B-7会議室。
壁一面のスクリーンには、台湾海峡を挟んだ福建沿岸の高解像度衛星画像が映し出されていた。
灰色の港湾には、Type 071ドック型揚陸艦やType 075強襲揚陸艦が整列し、その周囲を満載状態のRO-RO船や補給艦が囲んでいる。
赤くマーキングされた艦影の数は、先月の倍以上。
統幕運用課長が報告を続ける。
「SIGINTとELINTの分析では、福建沿岸の揚陸戦力は既に70%以上が集結済み。
通信傍受での部隊指示内容から、Dデイは早ければ5ヶ月以内との見積もりです」
作戦幕僚の一人が口を挟む。
「訓練期間は最低でも3ヶ月は必要です。即応部隊だけでは持ちません」
海幕長は短く頷き、手元の資料をめくった。
「そこで——大和再武装計画の関係者と、大和の旧乗員を各戦力に再配備する。
沖縄戦を生き延びた彼らの実戦感覚は、現場でこそ意味がある」
背後のスクリーンが切り替わり、配属先リストが映し出される。
イージス艦「まや」:杉浦二佐(まやCIC経験者)+大和水雷長・古村大尉
いずも型護衛艦「いずも」:甲斐三佐(航空運用士官)+大和飛行甲板補助員・加藤兵曹長
そうりゅう型潜水艦「そうりゅう」:森下一尉(潜水管制士)+大和潜望鏡見張員・仁志兵曹長
ミサイル巡洋艦「むらさめ」:白石一佐(防空戦隊幕僚)+大和高角砲指揮官・西村中尉
海幕長が指先で机を叩く。
「残り5ヶ月のうち、準備と訓練に3ヶ月、戦力展開に1ヶ月、残り1ヶ月は全て不測事態に備える。
時間は……もうない」
室内には誰も声を発さなかった。
全員が頭の中で、自分の持ち場と残された時間を計算していた。
これが、日本が戦後初めて実戦に参加する現実の始まりだった。
そして翌朝——
横須賀第1術科学校の広場に、現代海自の士官と昭和20年の大和乗員が並び立つことになる。