第81章 海自は戦えるのか
D-153 防衛省市ヶ谷庁舎・統幕会議室
窓の外は冬の鉛色の空。会議室の長机には海幕・統幕の幕僚たちが集まり、
壁一面のスクリーンには台湾海峡と南西諸島の作戦図が映し出されていた。
統幕運用課長が低く言う。
「SIGINTと衛星偵察の解析では、福建沿岸の揚陸戦力は既に集結ペースに入っている。
侵攻開始は最短で5か月後——D-150だ」
机上の地図を見つめながら、作戦幕僚の一人が口を開く。
「……残り5か月で、我々の乗員は本当に“戦える”のか」
防衛戦略課長が資料をめくる。
「現役の戦闘員のうち、実戦経験があるのは沖縄戦に参加した112名のみ。
それ以外は全員、訓練と演習でしか武器を扱っていない」
「訓練は積んでいる。だが——」
別の幕僚が呟く。
「——一度も被弾もせず、仲間の死も見ずに本番を迎える者ばかりだ。
初弾着弾の瞬間、どれだけ動けるかは未知数だ」
室内の空気は重く、誰もすぐには答えなかった。
やがて海幕長が短く切り込む。
「不安があるなら、その不安を潰す方法を出せ。
時間は、もうない」
その言葉が合図のように、作戦評価班に検討指示が下った。
翌日——彼らは沖縄戦闘行動評価報告書を机に並べ、大和乗員と沖縄経験者の抜擢案を持ち込むことになる。