第89章 講義は一通り終了し、全員“なんとなく理解した気がしている?
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《講義後・大学近くのカフェ。コーヒーとケーキが揃う》
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チサ
「ふぅ……。なんか、すっごい勉強した気がする。
今回ばかりは、頭のCPU温度が危険域まで上がった。」
アキナ
「私は途中で60℃を超えたので、内心“サーマルスロットリング”状態でした。」
圭太
「俺は“ここが生命の起動点です”って聞いた瞬間、
“マジか、そこまで行けたの?”って感動してました。」
後藤
「講義の最後の“生化学ネットワークの臨界値”……
あれ、かっこよかったです。
内容は三割くらい霧でしたけど。」
スノーレン(淡々とコーヒーを飲みながら)
「三割理解できたなら十分だ。
生命の起源の講義は、博士課程でも五割理解できれば上出来だ。」
チサ
「……じゃあ私たち、けっこう優秀なんじゃない?」
アキナ
「優秀……ではない気がします。
ただ、“なんとなく理解した感”はあります。」
圭太
「その“なんとなく”が大事なんだよ。
『散逸構造』って言葉、今ならギリ使えそうだもん。」
後藤
「私は“分子のエラー許容量が人格形成に似てる”って比喩が好きでした。
あれ、ちょっとわかりやすかった。」
アキナ
「それは概念を大幅にデフォルメしてるので、人格とは関係ないですが……
理解の入口としては悪くなかったですね。」
チサ
「スノーレン、私たちの理解度、採点するなら何点?」
スノーレン
「……62点。」
圭太
「微妙にリアルな点数だな。」
後藤
「赤点じゃなくてよかった……。」
スノーレン
「ただし“自信満々に間違っている部分”がいくつかある。」
チサ
「えっ、どこ?」
スノーレン
「チサ、あなたは“化学反応ネットワークは腹筋のように鍛えれば強くなる”と言ったが、
それは生物学的には完全に誤りだ。」
チサ
「う、うん……勢いで喋ったからね……。」
圭太
「俺の“原始海洋はスマホの充電器みたいなもの”って比喩も怒られる?」
スノーレン
「怒りはしないが、意味はほぼない。」
後藤
「でも、講義を踏まえて話すの楽しいですね。
“あ〜生命ってこうして始まったんだな〜”みたいな余韻がある。」
アキナ
「はい。
生命誕生の臨界条件やエネルギー勾配の話、
普段は絶対考えませんし。」
圭太
「それな。
本当に“最初の細胞が動き出す瞬間”を覗いた感じがした。」
チサ
「まあ……実際には、まだ誰も覗けてないんだけどね。」
スノーレン
「しかし、こうして“部分的にでも理解できた体感”を持つのは重要だ。
人工生命の議論は、
技術・物理・化学・情報科学が複合している。
これを一度に処理したのだから、あなたたちは十分健闘した。」
後藤
「ほ、褒められた……!」
圭太
「珍しいよな、スノーレンが褒めるの。」
アキナ
「褒めている……のでしょうか?」
スノーレン
「事実を述べただけだ。」
チサ
「はいはい。
じゃ、せっかくだから“今日の講義で一番好きだった部分”言ってこうよ。」
後藤
「私は“膜が偶然分裂する瞬間が臨界になる”ってとこ。」
圭太
「俺は“勾配が生まれると世界が動く”ってやつ。」
アキナ
「“自己複製が単純じゃない理由”ですね。
あれは納得感ありました。」
チサ
「私は、“生命は奇跡じゃなくて構造現象”っていう結論。
あれ、全体を一気に俯瞰できた感じがした。」
スノーレン
「良い選択だ。講義者も喜ぶだろう。」
圭太
「じゃあ、次は“第2回講義”だな。」
後藤
「まだやる気ですか……?」
チサ
「もちろん。
だって私たち、62点だよ?
……80点くらいまでは上げたいじゃん。」
アキナ
「目標が現実的で逆に怖いです。」
スノーレン
「では次回は“生命ネットワークの初期進化モデル”だ。
講義者に伝えておく。」
全員
「うわあぁぁ……!」
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