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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン22

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第79章 《講義後:惑星生命工学ゼミ室》



(講義が終わった瞬間、室内にしばし沈黙が落ちる。

机の上にはメモ、図、化学式、謎の折れ線グラフ……学生たちの脳内が崩壊した痕跡が散乱している。)


■ 1.沈黙を破るのは、いつも一人だけ


後藤

「…………あの……ごめんなさい……。

私、途中から“生命とは散逸構造であり不可逆過程におけるエネルギー勾配の時空的積分”って言われた瞬間に……

意識がブラックホールに吸い込まれて……気づいたら机に頭ぶつけてました……。」


(誰も驚かない。)


■ 2.冷静すぎる魔法使い(スノーレン)が淡々と追い打ち


スノーレン

「気にしなくていい。

多分“人工生命の講義を初見で完全に理解できる人類”は、もう人類ではない。」


後藤

「ぐ……逆に安心する……けど……。」


スノーレン

「ところで。

君は途中から“リボソームの自己再生は再帰的閉鎖を持つ”という説明で目のハイライトが消えていた。」


後藤

「そのあたりは……視界が白く……。」


■ 3.チサとアキナ、淡々と深刻な反省会


チサ

「私はね、人工生命の“エネルギー勾配の維持は膜のプロトン漏洩との競争”って説明が出てきた段階で

“あ、今日の昼ごはん、ちゃんと噛んでなかったな”って思い出してた。」


アキナ

「それ講義と全然関係ないじゃないですか。」


チサ

「だって、プロトンが漏れるとか、Δpが崩壊するとか言われると……どうしても“お腹の調子”と連想するんだよね。」


アキナ

「生命の根源を腸内活動と同列に並べないでください。」


■ 4.アキナ、真剣に崩壊する


アキナ

「私は“Eigen閾値”の部分が頭から離れません……。

ゲノム長 L に対して複製精度 p > 1 – 1/L とか……

あれ……つまり……

私の人生にも誤り訂正回路が必要なのでは?」


チサ

「必要だね。特に料理のセンスとか。」


アキナ

「そこじゃないです。」


■ 5.圭太(天気の子の圭介)、中年の余裕で全部受け流す


圭太

「いやぁ……なんか知らんが、要するに“生命ってのはエネルギー落としながら頑張る仕組み”ってことでしょ?

俺も毎朝そうよ。

階段降りながら“ああエネルギー散逸してんな”って思うし。」


スノーレン

「その程度の散逸では生命は維持できない。」


後藤

「スノーレンさん、言い方……。」


圭太

「まあ、量子だの熱力学だの言われても、中年には“ビール冷やすかどうか”くらいが現実だしねぇ。

でも、人工生命、ほんとに作れるのかね?」


スノーレン

「作れない。

作れても“準生命”。

完全な生命は、時間と履歴とエネルギー散逸の三条件が揃わないと成立しない。」


圭太

「ほら、全然わからん。」


■ 6.講義メモを見つめて沈黙が流れる


(机の上にはそれぞれのメモが散らばる。)


後藤のメモ

→ “プロトン……プロ……????

 膜……なんで?

 エネルギー……散逸……もう無理”


アキナのメモ

→ “Eigen limit

 誤り率=生存条件

 自己再帰構造……??

 pH……pHとは(混乱)”


チサのメモ

→ “プロトン漏れ→お腹

 エネルギー勾配→カレーの辛さ

 自律複製→無理”


圭太のメモ

→ “結局うまくいかないんだな”


スノーレンのメモ

→ “人間の理解速度は遅いので仕方ない”


■ 7.ついに後藤が崩壊する


後藤

「私……あの……

“生命は宇宙のエネルギー散逸の結果の一時的な解”

って言われた瞬間……

ギターのチューニングと生命の誕生が同じだと思ってしまって……

ギターが生命体に見えてきて……

今ここにあるペットボトルも生命体に見えてきて……

助けて……。」


チサ

「うん、今日は休もうか。」


アキナ

「後藤、あなたの脳はたぶん“相分離”し始めています。」


後藤

「相分離って……私の精神はコアセルベート……?」


スノーレン

「普通はそこまで混乱しないのだが。」


■ 8.圭太のまとめ(適当だが妙に正しい)


圭太

「結局のところ、

“生命は不可逆で非平衡で散逸構造で履歴依存で、

 計算できても作れない”

って話だろ?」


スノーレン

「だいたい正しい。」


後藤

「それだけでさっきの3時間分……?」


スノーレン

「本質はそれだけだ。」


チサ

「スノーレン、そんなにバッサリ?」


スノーレン

「不可逆過程を3時間説明しようが、要点は変わらない。」


■ 9.最後に“もう一度整理しよう”という空気が生まれる


アキナ

「……つまり。

講義内容は正しいけど、私たちの理解は……乱流状態。」


チサ

「乱流ってより、もう化学カオスだね。」


後藤

「私のは“ベルーゾフ・ジャボチンスキー反応”みたいな感じです……。」


圭太

「わかるようで全然わからん例えだな。」


(しばし沈黙)


チサ

「──よし。いったん全員、講義録を最初から見直そう。

順番に、“定義だけ”拾い直して、階層ごとに整理しようよ。」


アキナ

「賛成です。

まず“不可逆”、“散逸”、“履歴依存”の三つの軸からですね。」


スノーレン

「それが最も合理的な学習手順だ。

人類の記憶力は信頼できない。」


後藤

「もう一回……?

うう……でも……やる……。

次は……途中で意識を散逸させないように……。」


圭太

「よし、コーヒー淹れるわ。

中年の体力で支えるぞ。」


■ 結び


5人は、混乱した頭を抱えながらも、

**“もう一度、最初から講義録を読み直す”**という決意を共有した。

誰も完全には理解していない。

でも、誰も諦めていない。


人工生命の核心――

不可逆性 / 非平衡性 / 履歴依存性


この3つを突破しようとする人間の学習もまた、

小さな散逸構造のように、ゆらぎながら続いていくのだった。



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