第63章 東京の隔離
視点:海自潜水艦そうりゅう士官・佐倉智也
ホテルの一室は、沖縄の太陽とは無縁の、薄暗い空間だった。
窓の外は東京のビル群。見慣れた景色のはずなのに、ガラス一枚隔てた向こうは、まるで別世界のようだった。
佐倉はベッドに腰掛け、テレビのニュースをぼんやりと見ていた。彼と、もう一人の男──大和の乗員である岩崎──は、沖縄での「不発弾処理」の後に、東京へ呼び戻され、このホテルに隔離されている。
「不発弾処理の功績」という名目だった。しかし、部屋には常時見張り役の男が一人座り、外出は一切許可されていない。それは、功績に対する報奨というより、厳重な監視だった。
「なあ、やっぱりおかしいですよ」
佐倉はそう呟き、テーブルの向かいに座る岩崎に視線を向けた。岩崎は、黙ってスマートフォンを操作している。彼の口元は硬く結ばれていた。
「俺たちが引き上げたのは、どう考えても、あの報道で言ってる『第二次世界大戦中の不発弾』じゃない。金属疲労もなければ、錆もほとんどなかった。」
岩崎は顔を上げず、スマートフォンの画面を佐倉に見せた。そこには、数日前に流れたNHKニュースの映像が映し出されている。
『…第二次世界大戦中に投棄されたと見られる不発弾が発見され、自衛隊による処理作業が行われました』
「見てくださいよ、この報道。映像で映されているのは、俺たちが引き上げた銀色の筒じゃない。違う映像に差し替えられている。それに、あの筒の表面にあった文字、覚えてますか?」
佐倉は岩崎に問いかけた。
「覚えてるさ。『U.S.NAVY』って、はっきり書いてあった。しかも、その横に『SO-15』ってシリアルナンバーみたいなものも。俺たちのそうりゅうの魚雷とは違うけど、現代の米軍の装備品であることは間違いない」
岩崎は、ようやく重い口を開いた。彼の言葉には、佐倉と同じ、拭いきれない疑念が含まれていた。
「それに、あれは単なる魚雷じゃない。俺は、艦艇に搭載される兵器を専門に扱ってきた。あの構造は、ただの魚雷とは違う。自己推進装置の出力、そして何より、弾頭部分の形状…あれは、核魚雷だ」
佐倉は、岩崎の言葉に、全身の血の気が引いていくのを感じた。
「核…ですか」
「ああ。俺たちの潜水艦には、そんなもの積んでない。米軍の潜水艦もしくは大型艦艇にしか搭載されていないはずだ。でも、あの形状は間違いない。そして、そんなものがなぜ、80年前の不発弾として沖縄の海底に?」
二人の間に再び沈黙が訪れた。