第63章 虚空への帰還
宮古島から戻り、那覇港の埠頭に停泊する「大和」の艦橋で、野間は静かにタブレットの画面を見ていた。
「俺が殺したんだ」
彼は大友を俺が見殺しにしたんだとという想念にさいなまれていた
そこへ、突然一人の男が転がり込むように入ってきた。
「大友……!」
野間は、驚きを隠せない。大友は、ロナルド・レーガンに乗艦したあとの連絡がとれずにいたのだ。
「生きてたのか まさか 信じられない。」
「野間さん……」彼は野間の言葉も無視して 野間にUSBメモリを手渡した。
野間はいっしゅん訳がわからない様相で、手のなかのUSBメモリーをぽかんとながめていたが、
すぐにわれにかえり、それをタブレットのスロットに差し込んだ
艦橋の片隅で、二人はタブレットの画面を食い入るように見つめた。そこには、レーガンの艦長、グレイヴス大佐が残した、80年前の沖縄沖海戦の詳細な記録と、今回の事件の経緯が記されていた。
「……まさか、彼らは本当に、あの日の記憶を……」
野間は、信じられない、という表情で呟いた。
USBメモリに残された記録の核心は、グレイヴスの独白だった。
『村上艦長も、薄々感づいていたはずだ。この核弾頭が、単なる兵器ではないことを。そう、Ω計画のトリガーは、核起爆に極めて近いエネルギー放出を必要とする。だが、そのエネルギーが十分に満たされた時、核爆発はキャンセルされ、代わりに時空が歪む……。これは、80年前の私たちが大和との死闘の末に開発した、最後の希望だ。』
「……つまり、グレイヴス艦長と村上艦長は、互いに核兵器を使用する覚悟をしながらも、その裏で、核爆発ではない結末を信じていた、と?」
大友の声が震える。
「そうだ。だが、絶対の確信はなかった。だから、もし核が実際に起爆しても、それはそれで受け入れる覚悟があった。彼らは、自分の命を賭して、歴史を記録しようとしたんだ」
野間の言葉に、大友は、ただ沈黙するしかなかった。
二つの核、二つの正義。そして、二つの艦の間に生まれた、時空の歪み。歴史は、単なる悲劇の繰り返しではなく、未来への希望を紡ぎ出すために、彼らを巻き込んだのかもしれない。