第62章 《特別機密会合記録 第5回裏会議》
《特別機密会合記録 第5回裏会議》
場所:防衛省地下B-7会議室
議題:「読谷沖にて発見された“特殊魚雷様構造体”の起源について」
(会議室、照明を落としたまま、壁面にNHKの報道映像。
回収作業のトラックが砂浜を走る。観光客が不安げに語る)
官房副長官補(小声でモニターに目を向けながら)
「……よくこの文言で抑えたな。海自の広報、誰が仕切った?」
政策企画室長
「C広報官が即時対応。台本は、3週間前の『辺野古沖旧弾処理計画』を改変流用しています」
小早川班長(CIRO)
「映像の編集にも介入しました。RBCとOTVのローカル局には、事前に『防衛省推薦の元自衛官解説』を配置済み。ネット拡散も追跡中です。今のところ“核”の文字は出ていない」
外務省参事官(腕を組み)
「だが、CNNは既に注目している。彼らは日本語報道をAI翻訳で逐次読んでいる。“円筒構造の大型魚雷を自衛隊が極秘に移送”と判断されれば、来週の国連軍縮会議に飛び火する」
公安調査庁統括監
「ネットの異常値も拾ってます。X(旧Twitter)で『変な魚雷』『音がしてた』『泳いでたら兵隊に怒鳴られた』系のポストが累計600件。“大和の幽霊が動き出した”なんてタグも出てますよ」
統幕戦略運用課長(眉をひそめる)
「読谷の状況、もう“戦場”だ。作業は本日1400に完了したが、あの弾頭……万一、臨界近傍の不安定化を起こしてたら、局地放射線漏れもありえた。」
官房副長官補
「次はない。あってはならん。……」
(皆 しばし沈黙)
「で モノ の正体はなんだ。確定したのか」
外務省軍備管理室・主任分析官
「米軍の遺失品が回収されず“事故的に残存”していた可能性はあります。
たとえば、嘉手納やホワイトビーチでは戦略弾薬を保管・展開する艦船が定期的に出入りしていた。機密指定されたミッションで、潜水艦から海中展開された弾体が、何らかの事故で回収不能になった可能性はゼロではない」
警察庁外事課長
「米軍の“特殊兵器紛失”例は過去にもある。1950年代のグリーンランド基地爆撃機事故や、1980年のネバダでの水中発射実験事故。ただ、今回は刻印に『USN特定コード』『Remote Arm Protocol』があるのが不可解だが」
防衛装備庁・弾薬処理課
「しかし問題は、刻印の一部に“JMSDF-91 SORU”というコードが薄く残っていたことです。“SORU”は明らかに“そうりゅう”型艦の略称。91とは艦番を意味する可能性がある」
「…つまり、これは“米軍から一時供与された核兵器”を、“非公式に自衛艦に搭載”していたことを意味する。
平たく言えば——国家の“憲法越境”を証明する証拠だ」
海自第1陸佐(特管隊指揮官)
「発見者は、当該ダイビングツアーの海自OB隊員と、大和の機雷長・仁志兵曹長。彼らの判断で“接触せず通報”、妥当です。現在、仁志は那覇基地で隔離。明朝、有馬艦長らと共に、上京させます」
小早川班長(目を伏せながら)
「……あの魚雷、“戦後投棄”ではありません。1945年4月6日以前の構造形式で、魚雷管跡も一致。“そうりゅう型の艦番号刻印”、確認済みです」
(会議室、沈黙)
官房副長官補(低く、鋭く)
「つまり、我々が今やっている“火消し”は……真実の偽装ではなく、“歴史の偽装”だと?」
小早川
「……そうです。あの魚雷が海底にある、という前提自体が、“この時代に存在してはならない証拠”です」