第60章 疑念
午前6時15分。
ビーチを見下ろせる高台まで上ると、眼下に広がる光景は、想像していた「不発弾処理」とはかけ離れていた。それはまるで、厳重な警備が敷かれた軍事訓練のようだった。
白いバリケードが砂浜を囲み、その内側には、陸自のOD色の迷彩服を着た隊員だけでなく、漆黒のウェットスーツに身を包んだ海自の潜水装備者も複数いた。
砂浜には、OD色の軍用コンテナを牽引した中型トラックがいくつも並べられ、その脇には、銀色の巨大な筒形ケースが置かれている。隊員たちの耳元には、タクティカルマイクが光り、無線で交信している。彼らの視線は常に周囲を警戒していた。
その日、海から引き上げられた鈍い金属光沢を放つ物体は、遥香が写真で見たことのあるような、砲弾や爆弾の形ではなかった。それは円筒状で、数メートルの長さがあり、船舶用の特殊な機材か、あるいは魚雷のようにも見えた。
隣で見ていた地元の男性が、吐き出すように呟いた。
「あれは…普通の不発弾じゃないさ」
「え?」遥香は思わず問い返した。
「そもそも、うちなんか昔もやってたけど、あんなものは見たことない。それに、普通の不発弾処理は、もっと大声で指示が飛ぶもんだ。こんな早朝に、こんなに静かにやるかね」
遥香は、この光景を記録に残したい衝動に駆られ、スマホを取り出してカメラを向けた。その瞬間、背後から私服姿の若い男が、鋭い声で言った。
「申し訳ありませんが、撮影はお控えください。ここは国の指定区域です」