第44章 非正規再武装艦艇プラットフォーム
重苦しい沈黙を破ったのは、江田島防衛技術開発センター所長(2佐)だった。
彼は、スクリーンに一つのプロジェクトコードを投影する。
《Project AOBA》
「戦術的沈黙と象徴的可視性を両立する、非正規再武装艦艇プラットフォーム」。彼の説明は淡々としていたが、その内容は、部屋にいる全ての出席者の耳目を釘付けにした。
「大和は、船体はあくまで記念艦・移動展示施設として登録します。しかし、その内部構造は可変モジュール式とし、民間技術を基に戦術化対応を可能とします。基本フレームは三層構造で、上部は観光施設、中層は指揮通信モジュール、下層に兵装ベイを設置します」。
彼は、さらに核心に触れる。「火器管制は外部AIサーバから遠隔切り替え可能なシステムを採用。無人機母艦としての準備構造も設計可能とし、艦上射出システムは民間ドローン整備対応と見せかけます。
『非公式戦力、準防衛資産、準記念艦』としての三面性が、この案の核心です」。
「もちろん現時点の案です。一旦計画の表紙さえ政府首脳で合意できれば、中身は今後いかようにも変更できます。
経産省の防衛装備庁室長が、補完するように続けた。「象徴は制御できない。解体すれば真空を生む。ならば、“選択された象徴”として、国家意思を持たせるしかない。」
「それが再武装だ。ただし、決して“軍艦”ではなく、“防衛技術実証実験プラットフォーム”として運用し、政権が変わっても揺るがぬ制度的基盤を与える必要がある」。
内閣情報調査室の情報班長も、慎重に付け加えた。「情報操作のフレームとしては、**“記憶の船”**という軸は残すべきです。再武装を曖昧化させる煙幕になります」
。
そして議長・篠田が、最終確認を求めた。彼の声には、この決定の持つ歴史的な重みが込められていた。
「我々は、『大和』を再武装させる。象徴ではなく、可視化された沈黙の威圧——未来における選択の余地として。ただし、それは非公式の国家戦略資産として、いかなる文書にも残さず構築されることをここに確認する。」
「なお、詳細な改修設計は江田島防衛技術開発センターを中核として、大手民間企業と極秘計画のもと進めていく。」「異議あるか」。
沈黙が肯定だった。誰も異議を唱えなかった。