第11章 シュガーローフの攻防:未来の戦術
牛島大将との会見を終えた山名三尉は、足早に第32軍司令部の作戦室へと戻った。薄暗い電灯の下、陸軍の士官たちが地形図を囲んで議論を交わしている。彼らの疲労困憊した顔には、それでも新しい情報への期待と、戦況を覆せるかもしれないという微かな希望が浮かんでいた。
「山名三尉、ご苦労であった」
作戦室にいた陸軍の参謀の一人、長参謀長が山名に声をかけた。彼の目は鋭く、未来からの来訪者に対する警戒と、戦術への渇望が同居しているようだった。
「報告いたします。片倉大佐より、シュガーローフ方面への米軍の再攻撃について、精密な偵察情報が届いております。」
山名は携帯していた小型端末を取り出し、中継器を介して作戦室の簡易な投影機に画像を映し出した。
それは、夜間にMQ-9Bシーガーディアンが無音で捉えた、最新の米軍配置図だった。高解像度の画像には、丘陵の陰に隠れた迫撃砲陣地、兵員集結地点、そして車両の移動ルートが鮮明に示されている。
「これは……!我々の偵察機では決して捉えきれない情報だ!」
陸軍士官の一人が、驚きの声を上げた。これまでの航空偵察とは比較にならない情報量と精度に、彼らは息を呑んだ。
山名は続けた。「米軍は、これまでの損害から、正面突破は困難と判断している模様です。偵察結果によれば、彼らはシュガーローフの北西から迂回し、側面を突く作戦を準備しています。また、予想以上の数の戦車と火炎放射器部隊を投入する兆候が見られます。」
長参謀長は、無精髭の生えた顎に手を当てて唸った。「側面か……。情報がなければ、奇襲を受けていた可能性が高い。」
「我々は、この情報に基づき、貴軍の防衛線を最適化する提案をいたします。」山名は、投影された三次元マップ上で、いくつかの地点を指し示した。「まず、この丘陵地帯。米軍の戦車部隊が迂回する可能性のあるルートです。ここに、対戦車地雷を史実よりも広範囲に敷設し、伏兵を配置することを推奨します。また、海自の艦砲射撃をここに集中させ、敵の進撃を阻害します。」
陸軍士官たちは、驚きとともにその提案を聞いた。これまでの彼らの戦術では、これほど精密な連携は不可能だった。
「さらに、米軍の砲兵陣地と指揮所がこの地点に確認されています。」山名は別の地点を指した。「海自の護衛艦群が、F35Bの情報に基づき、これらの目標へ精密な艦砲射撃を行います。これにより、米軍の火力支援を寸断し、歩兵部隊の士気を挫くことが可能です。」
「敵の迫撃砲を沈黙させる、か……。」長参謀長は目を閉じ、しばし沈黙した。彼らがどれほどその「沈黙」を求めていたか。これまで、日本軍の陣地は絶え間ない米軍の砲撃に晒され、甚大な被害を受けてきたのだ。
「つまり、貴官らは、我々がこれまで感覚と経験に頼ってきた戦を、その『未来の目』と『精密な火力』で補完するというのだな。」
「その通りです」山名は強く頷いた。「我々は、貴軍の兵士の命を救い、この戦いを意味あるものとすることを目指しています。我々の技術と貴軍の地の利、そして勇敢な兵士が連携すれば、シュガーローフを突破させることはできません。」
「よし。提案を受け入れよう。各部隊、これより作戦を練り直せ。海自からの情報に基づき、徹底した防衛線を構築する。そして、シュガーローフの米軍に、二度と我々の土地を踏ませるな!」