第43章 特別機密会合記録 第4回裏会議》
会議室の空気は、張り詰めた緊張と、深い失望が混じり合うものだった。
スクリーンには、ネット世論の急変が映し出されている。
「大和は遊園地か」「靖国を海に浮かべる気か」――そんな強い否定の文言が赤く強調されていた。
副大臣の軽率な発言は国際的にも報道され、某隣国国防相は「日本は軍国的回帰を象徴化して国際世論を試している」と、日本の意図を訝しむ発言をしていた。
議長・篠田は、静かに口を開いた。彼の声は低いが、その言葉には重みがあった。
「象徴は制御できない。AIやAR(拡張現実)をいくら仕込んでも、“語り手”が政治的過ちを犯せば、世界はそれを日本の国是とみなす。特に、現政権が不安定化した場合、“象徴”は正反対の旗印にすり替わる危険性がある」
。
誰も反論しなかった。観光利用という当初の発想は、すでに失敗の予兆を見せていたのだ。大和という存在が、あまりにも巨大な象徴となりすぎていた。
防衛技術研究本部・次長が挙手した。彼の提案は、冷徹な現実主義に根差したものだった。
「象徴の制御不能が確認された以上、次善策として“解体・封印”が検討されるべきです。大和という存在そのものが不安定因子であるなら、いっそ消去した方が良い」。
しかし、その発言に最初に異を唱えたのは、IHI(石川島播磨重工業)の特殊艤装部門長だった。彼は、実務的な観点から、その困難さを指摘した。
「艦体の撤去には最短でも2年、海底基礎を含めれば3年を要します。かつ現場作業は海上保安庁、民間企業、多数の下請け業者に波及し、“解体される大和”は再びメディアとSNSの主役になります。国民感情への影響も計り知れないでしょう」。
三菱電機の防衛電子統括も、その意見に続いた。彼の言葉は、解体が新たな情報戦のリスクを生むことを示唆していた。
「むしろ、解体は“敗北”の記号として、国内外の極端勢力に利用されるリスクがある。“日本が戦争の記憶から逃げた”と、歴史修正主義者や反日勢力に攻撃の口実を与えかねません。」
一同は沈黙した。大和をそのままにしては制御不能な象徴となり、解体すれば新たな政治的・情報戦的リスクを抱える。まさに八方塞がりだった。