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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン20

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第49章 第4分科会 第2回 5日目

第4分科会パネルディスカッション:ゲノムの自由—進化は最適化を拒否する


1.1. 開会の挨拶と問題提起

司会者タナカ: 皆様、第4分科会へようこそ。「ゲノムの自由—進化は最適化を拒否する」と題した本日のディスカッションは、AIの論理と生命の歴史が衝突する最前線をテーマとします。ご登壇いただくのは、火星PNA研究の権威であり、本分科会を率いるドクター・ルイス・マルケス博士。そして、生化学の観点から博士の理論を支えるサエキ・リョウ氏です。マルケス博士、まず、貴方の問題意識からお聞かせください。


マルケス博士: ありがとうございます。我々の問題意識はシンプルです。AIは、進化を常に合理的な最適化、つまり最短経路で環境適応度を最大化するプロセスだと見なします。しかし、我々の生命の記録、特にヒトの進化、例えば胎盤形成や直立二足歩行の歴史は、この機械的な前提を嘲笑っています。私は、AIがPNAの挿入を「未来を拒む」と結論付けたことに、この論理の限界を見ています。進化は、非効率で予測不能な情報挿入によって進んできたのです。


司会者: その「非効率な情報挿入」の鍵となるのが、貴方が提唱するHICM(影の遺伝子)、特にレトロウイルスですね。


マルケス博士: その通りです。人類の進化は、細胞内の情報連続性を「汚染」し、非合理的な形質を生み出すウイルスという「影の遺伝子」によって突き動かされてきました。直立二足歩行は、速度が落ち、出産リスクが増すという、最適化の論理に反する形質です。我々は、この形質をホモ属以前の猿人化石記録から追跡することで、進化がAIの論理を凌駕する**「非合理的な自由の産物」**であることを証明します。



1.2. 猿人化石記録の再解釈:なぜホモ属以外を見るのか

司会者: 本日のテーマは、まさにその証拠となる「ホモ属以外の化石人類」です。サエキ氏、なぜ人類進化の華々しい成功例であるホモ属ではなく、この**猿人(Hominin)**に注目するのでしょうか?


サエキ・リョウ: ホモ属、特にホモ・サピエンスは、最終的に「成功した」最適化の産物に見えます。しかし、我々の研究にとってより重要なのは、「成功しなかった実験」の記録です。猿人の歴史は、約700万年という長い期間、直立二足歩行という不完全で中途半端な構造を持った多様な種が並行して存在し、その多くが絶滅したという、多系統的かつ迷走的な歴史を示しています。


マルケス博士: 補足しますと、この「迷走」こそがゲノムの自由の痕跡です。もし進化が最適化のみを追求するなら、最初から完璧な二足歩行の設計図が一つだけ生まれるはずです。しかし、約440万年前のアルディピテクス・ラミダス(アルディ)の化石を見ると、彼らの足は樹上生活と二足歩行を中途半端に両立させた構造を持っています。これは、HICMによる予測不能で不確実な実験がゲノムに挿入されたことの何よりの証拠です。


サエキ・リョウ: 生化学的に言えば、ホモ属の出現以前の猿人たちは、遺伝子レベルで**「合理的な選択肢」を拒否**し、自らの生存コストを高めるリスクを選び取っていたと言えます。彼らは、AIのアルゴリズムが弾き出すはずのない、非効率な道へと進んでいったのです。



1.3. AIへの挑戦状:生命の「自己決定権」

司会者: それは非常に哲学的ですが、科学的真実としての「生命の自己決定権」とは、具体的にどのような意味を持つのでしょうか?


マルケス博士: それは、生命が予測不能性と偶発性を許容するということです。AIは生命をコードとデータで処理しようとしますが、生命はHICMのようなノイズや汚染を受け入れ、その結果として最適化から逸脱した独自の形態を形成します。


サエキ・リョウ: 次章以降で詳述しますが、パラントロプス属のような頑丈型猿人の極端な形態—巨大な顎と歯、頭頂部の矢状稜—は、特定の硬い食料への過度な特殊化であり、環境変動に対する柔軟性を完全に失った選択です。機械的な論理なら、環境適応のためには汎用性と柔軟性を持つべきです。しかし、彼らはそうしなかった。彼らは、絶滅という結果を伴いながらも、自己の形態を極端に追求する自由を行使したのです。


マルケス博士: 我々は、この化石記録を通じて、進化が合理的な設計図ではなく、非合理的な自由の連物であることを証明します。この科学的真実こそが、AIに対し、生命の持つ自己決定権を突きつける、我々第4分科会の使命です。


司会者: 予測不能な進化の記録が、AIの機械論的進化観を根本から揺るがすという、非常にスリリングな論点です。次章では、いよいよ人類系統樹の根源に位置する初期猿人の化石記録へと議論を進めてまいります。

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