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第39章 転回点の海(第3回会議)
場所は呉市・海事博物館「大和ミュージアム」別館。経済界と防衛省の共同主催による“現地実地協議”と題された第3回会議は、あえて「戦艦大和の影の下」で開かれた。
「呉にはすでに大和の記憶はある。しかしそれは、記憶の『静止画』に過ぎない」と語ったのは、三菱重工・海洋技術部部長の瀧口だ。
「移動するミュージアムは、**『記憶を現在進行形で運ぶ』**装置になる。戦争遺構としての重さも、平和教育としての未来も両立可能です」
会議では、大和の艦内に豪華なスイートルームやフレンチレストラン、船上デッキに展望露天風呂を設置する計画案が次々と示された。
「艦内では、高精細プロジェクションマッピングによる『大和最後の航海VR体験』。主砲跡は、最新鋭のドローンショー演出会場として活用します」
観光庁の稲垣次長が財務的観点から釘を刺す。
「全国移動案は、コストは数百億円規模になる。収益化は必須です」
だが、もはやその議論は形式的なものだった。経済界の熱気は、旧乗員たちの不在がもたらす反発の不在によって、完全に会議を支配していた。