第35章 特権(コネ)は非効率にして最強 ― 究極の招待状
舞台:日本のとある研究施設・休憩スペース
第二回分科会『火星史の非合理性』の報告会を終えた一行が集まっていたのは、日本の片隅にある研究施設の休憩スペース。
コーヒーはぬるく、Wi-Fiは遅い。そんな場所で彼らを待っていたのは、現実という名の壁だった。
「渡航費が…終わってる……」
アキナはPCの画面を前に、思わずため息を漏らした。
「ジュネーブから次の開催地・エチオピアまで、最安ルートでも予算オーバー。システム工学的には“破綻”ね。」
「うぅ…わたしの機材、すごく重いんです…でも削れないんです…」
後藤はリュックに埋まりながら、涙目。
「歩けば?」
リュウはあっさり言い放つ。「物性物理的に、問題ない。」
空気がどんよりと沈んだその時――
スノーレンが、黙って古びた木箱を開けた。
中から現れたのは、黒曜石のような輝きを放つ小型デバイス。彼女は静かに言った。
「大丈夫。“千年間の顔”があるから。」
そして、デバイスが起動すると、AIの監視を完全にかわした回線が開き、
画面には、“古の図書館”の守人にして、老政治哲学者・カミシロ・トウゴの姿が現れた。
「――諸君の非効率な探求心を、我々は高く評価している。
よって、“理性の亡命者”の分科会に正式に招待する。旅費込みで、ね。」
その瞬間、全員のスマホに“招待状データ”が一斉に届く。
チサ:「え!? プライベートジェット!? ビジネスクラス超えてるじゃん!? ミシュラン機内食付き!?」
圭太:「なにこれ、サハラ上空での星空観測ツアー付きってマジ!? 地球最高!」
ラマルク:「地質調査のオプション付きか…俺好みだな。」
フェリス:「……AIの予測モデルが壊れるレベルの優遇っぷりですね。」
藤子:「まとめるわよ。これは“古の図書館”が、世界各国で開催される分科会への全旅程を保証するという意味。
渡航費、滞在費、研究費――すべて込み。つまり、これはただの旅行じゃない。学術亡命。」
カミシロは静かにうなずいた。
「君たちは、特権を得た。だがそれは、世界の虚構に立ち向かう“亡命者”としての証でもある。
次の集合地は、AIの目が届かぬ**“理性の亡命地”。**旅は始まったばかりだ。」
――こうして、
特権(=千年のコネ)によって、博士課程生たちは世界を巡る“分科会ツアー”に旅費付きで招待された。
観光気分? そんな暇はない。待ち受けるのは、AIと人間の知性をかけた、壮絶な“真理の闘い”なのだから―




