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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン20

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第26章 第4分科会 第2回目 二日目 ④

超大陸サイクルの地質学と進化の断絶


(登壇者:サエキ・リョウ)


(サエキ博士が再び演壇に立ちます。背後のスクリーンには、巨大な超大陸パンゲアの配置図と、それに伴う大量絶滅のグラフが重ねて表示されています。地質学的な巨大な変動と、生物多様性の急激な喪失の相関を示唆するビジュアルです。)


「第3章でマルケス博士が示したように、生命は自ら大気環境を毒に変えるという非合理な選択をしました。本章では、その生命が適応を続けた舞台—地球の地質的土台—がいかに最適化の連続性を否定し、進化の予測を不可能にする断絶を生み出したかを検証します。」



V.1. 超大陸サイクルの力学:予測不能な環境ストレスの原動力

「地球の地質学は、超大陸サイクルという、極めて長周期で非線形な現象によって特徴づけられます。これは、プレートテクトニクスによって大陸が集合し(例:ロディニア、パンゲア)、その後再び散開するというプロセスです。」

「この超大陸のサイクルは、単なる大陸配置の変化ではありません。それは、地球上の気候、水質、そして火山活動を非周期的に、かつ劇的に変動させる地質学的な原動力です。」


「大陸が集合すると、巨大な大陸内部に極端な乾燥気候が生まれ、浅い海域が失われることで海洋生物の生息地が激減します。また、散開期には、マントルの活動が活発化し、大規模な火山活動(例:シベリア・トラップ)を引き起こします。これらの変動は、生命にとって予測不能な環境ストレスの主要因であり、**最適化された生態系を破壊する『外乱』**として作用しました。」

「AIの論理は、環境が漸進的に変化し、生命がそれに合理的に適応することを期待します。しかし、超大陸サイクルが示すのは、環境が数千万年のスパンで劇的にリセットされ、進化の努力が突如として無に帰す、非線形なカオスです。」



V.2. 地質変化と大量絶滅:最適化の非合理的なリセット

「この超大陸サイクルによって引き起こされた最も非合理的な結果が、大量絶滅です。」

「大量絶滅は、地質変化(火山活動、海洋の無酸素化など)が引き起こす、環境の急激な複合変化によって、その時代に最も最適化されていた種群を無差別に消去する出来事です。例えば、史上最大の絶滅事象とされる**ペルム紀/三畳紀境界(P-T境界)**では、地球上の生命の90%以上が失われました。」



「もし進化が最適化のプロセスであるならば、最も適応力が高く、エネルギー効率に優れた種が生き残るべきです。しかし、大量絶滅は、特定の形質や最適化の度合いに関係なく、**単なる運(地理的な配置や絶滅イベント発生時の代謝状態)によって生存者が決定されるという、『非合理的なリセット』**でした。」

「この断絶は、進化の**『連続性』と『積み重ねの価値』を否定します。最適化された情報システムであれば、これまでの成果を最大限に利用しようとするはずです。しかし、地球史は、地質学的要因によってその情報(遺伝子)の大部分が突如として消去される**という、究極の非効率性を繰り返してきたのです。」



V.3. 大量絶滅後の進化:ニッチの解放と非効率な適応

「この大量絶滅という断絶が、我々の議論において最も重要です。」

「大量絶滅は、環境をリセットすると同時に、生態系のニッチ(生態的地位)を劇的に解放しました。生き残った少数の種—しばしば絶滅前の環境下では非効率的で、目立たない存在だった種—が、空いたニッチに拡散します。」

「彼らは、解放された環境で、必ずしも最適解ではない、間に合わせのような形質や、遺伝的な冗長性を保持したまま、急速に適応放散を始めます。例えば、恐竜の絶滅後の哺乳類の初期の進化経路は、最適化ではなく、**『利用可能な資源を最大限に利用する』という『非効率な急速な実験』**でした。」

「この断絶と再構築こそが、AIの最適化論理では説明できない進化の多様性を生んだ源泉です。進化は、漸進的な最適化ではなく、外部から強制される非効率なリセットに適応することで、より非線形な進化の自由を獲得してきたのです。生命は、この断絶の教訓から、遺伝情報に常に『再構築のための余白』、すなわち『影の遺伝子』による情報挿入の自由を組み込むことを学んだと言えるでしょう。」

(サエキ博士は、地球史の検証を締めくくる結論章へと、マルケス博士にバトンを渡します。)

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