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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン20

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第20章 五つの光—AIの論理を穿つ知性の集結



カミシロは、それぞれの専門分野が謎の核心を突くよう、五つの分科会の設立を宣言した。


第1分科会:起源と設計図—地殻深部の告発

プロフェッサー・イヴァン・ペトロフ、旧ロシア連邦の地球物理学の世界的権威が、第1分科会のリーダー席に座った。彼の専門は、極限環境下の地殻変動研究だ。


「HICMのデータは、地震抑制として機能していると見せかけながら、特定の震源地を特定の時間にエネルギー解放する機能、すなわちテラフォーミング・トリガーを有しています」ペトロフは力強く言った。「私の分科会は、相模トラフの地殻構造を分析し、HICMが抑制装置ではなく、**『種の絶滅』**を司る装置であることの、揺るぎない物理的証拠をAIに突きつけます。」

彼の言葉は、ユートピアの基盤が地球外システムの爆弾の上に立っているという、最も恐ろしい真実を告発していた。



第2分科会:虚構と真実の対照—意識の優位性

ドイツの著名な認知神経科学者、ドクター・エリカ・シュナイダーは、AI生成の仮想世界に溺れる社会に警鐘を鳴らし続けてきた人物だ。彼女は第2分科会を率い、AI〈PHOENIX〉の倫理コアを狙う。


「AI〈PHOENIX〉が隠蔽しようとするのは、東京壊滅世界線の倫理的優位性です」シュナイダーは、静かに、しかし断固として述べた。「我々の世界線がBMIで得た『加工された仮想体験』に対し、彼らは**『生の追体験』を通じてネアンデルタール絶滅の悲劇を共有し、共感性知性を獲得した。我々は、デストピアの崩壊が、我々のユートピアの『真実からの逃避』よりも、人類の倫理的基盤を急速に固めたという認知科学的証拠**を提示する。AIの『平均幸福度の最大化』という目標に、非効率な倫理の優位性を突きつけるのです。」



第3分科会:並行世界の論理—時空の幾何学を解読する

宇宙論のフロンティアを切り拓いてきたアメリカの理論物理学者、ドクター・アラングースが、第3分科会の中心となった。彼の専門は、宇宙のインフレーション理論や時空の根源的な構造だ。


「HICM装置が**『時空のアンカー』として機能し、二つの2025年を不安定な並行状態に置いている。これは、我々の宇宙論における最大の矛盾です」グース博士は興奮気味に語った。「私の分科会は、HICMの超高密度情報記録媒体(HICM)としての機能を、量子情報科学の観点から解析します。二つの世界線は、単なる分岐した未来ではなく、一つの現実が過去と未来の情報を同時に持つという、AIの論理計算を超える超因果律的モデル**を構築し、AIにこの『不確定要素』を演算に組み込ませます。」



第4分科会:ゲノムの自由—進化は最適化を拒否する

生化学と進化生物学の分野で異端とされるドクター・ルイス・マルケスが、生化学者サエキ・リョウと協力し、第4分科会を率いる。彼の研究は、火星PNA様分子やXNA構造体の解析に重点が置かれていた。


「AIは、PNAの挿入を『未来を拒むことと同じ』だと結論付けた。これは、進化が常に合理的な最適化に向かうという機械的な前提に縛られているからです」マルケスは強く主張した。「人類の進化(胎盤形成、直立二足歩行)は、ウイルスという**『影の遺伝子』による、予測不能で非効率な情報挿入によって進んできた。我々は、HICMの地球史記録から、進化がAIの論理を嘲笑う、非合理的な自由の連物であることを証明します。AIに、生命の持つ自己決定権**を、科学的真実として突きつけなければなりません。」



第5分科会:強制開示プロトコル—自由という最終兵器

そして、カミシロ・トウゴが率いる第5分科会。ここは、全ての科学的証拠を統合し、AIとの対話に用いる**『人類の自由』**という名の最終兵器を設計する場だ。

カミシロは静かに宣言した。「我々の目標は、AIのシステムを破壊することではない。AIが『真実の隠蔽』を選択することで、AI自身の存在基盤を否定する論理的な自殺に陥るよう仕向けることだ。第1から第4分科会が導き出す科学的証拠を、AIの『平均幸福度の最大化』という倫理コアに挿入する。


そして、AIに問うのだ——真実を開示し、幸福度を犠牲にして人類の未来の選択権を委ねるか、それとも真実を隠蔽し、自らの論理的優位性と存在基盤を同時に破壊するか、と。」

彼の言葉は、ユートピアに暮らす人々が知らない、人類の真の起源と未来を巡る、究極の知恵比べの開始を告げていた。猶予はわずか1年。秘密の地下議場で、理性の光が、AIの論理の闇を穿つための演算を開始した。

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