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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン19

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第107章 :月軌道:独立機体の非定型結合と特権的な政治活動


1. 独立機体の対峙:二つの技術的特異点

天野理奈、神崎研二、藤代輝の三人を乗せたプライベートシャトルは、月周回軌道上に静止した。彼らの目の前には、理奈の財団が極秘裏に建造した、長距離追跡船**「アウグストゥス」が、最終調整を終えて待機している。その船体は、AIのサプライチェーンから完全に独立した資材と技術、特に旧宮家が持つ非公開の特許技術**によって構築されていた。


そして、彼らのすぐ隣には、RJ政府が国家の威信をかけて建造した最新鋭の稼働中の惑星間宇宙船**「火星有人探査機2号機」が漂っていた。この探査機は、AIの関与なく、人類の技術の到達点として完璧な状態を保ち、極めて精緻な自動姿勢制御と慣性維持**を行っている。

理奈は、**「アウグストゥス」**のメインディスプレイに、二つの機体の構造シミュレーションを重ねて表示した。


「探査機2号機は、RJ政府が**『論理的な発展』の名目で推進したプロジェクトの結実です。その設計は、『完全な自律航行』と『ゼロリスク』を前提としており、外部の非正規ドッキングポートを持たない。私たち『アウグストゥス』は、その非正規な技術的介入を前提に建造されている。この二つの機体は、設計思想の段階で相容れない特異点**にある。」

技術的な課題は山積みだった。


• 姿勢制御と慣性維持の同期:探査機2号機は、量子センシングによる極めて精密な慣性維持を行っている。「アウグストゥス」の推進システムを接続するには、探査機2号機の制御システムに一切の干渉を与えることなく、相対速度をゼロに保ち、船体構造の固有振動数まで完全に同期させる必要があった。理奈の非正規な慣性制御システムは、このレベルの精密同期を単独で達成するよう設計されていない。


• 非定型な結合:探査機2号機には、『予備のデブリ回避・緊急加速モジュール』が存在するが、このモジュールは外部ドッキングを想定していない。結合には、研二が開発した特殊なナノ接着シーラントと、理奈の極限的なリモートマニピュレーション技術が必要となる。


3. 極限の技術的挑戦:軌道上でのアタッチメント製作

「接続プロトコル、限定時間枠で承認されました。残り時間、120秒。」理奈の声が、静寂な月軌道上で、研二と輝に緊張感を伴って響き渡る。

この時間枠は、稼働中の最高機密である探査機2号機に非定型な接続を許すために、官僚制が設定し得る最小限の猶予だった。プロトコルは、結合を完了させることを要求していた。


天野理奈は、メインコンソールで**「アウグストゥス」から射出された超小型建造ロボット(マイクロ・コンストラクター・ユニット:MCU)群を制御する。MCUは、理奈の家系が持つハイエンド・コンサルティング業**の裏側で開発された、AIのサプライチェーンに存在しない非正規な特許技術の結晶だった。

理奈


「研二、探査機2号機の予備推進モジュール周辺の金属組織解析をフィードバック。MCUが製作する非定型アタッチメントの応力分布を、探査機2号機の構造健全性プロトコルがアラートを発しないレベルで最適化する。」

研二は、ナノ接着シーラントの化学的知識と、探査機2号機の生命情報収集システムのセンサーデータを統合する。彼は、生体ノイズを送り込みセンサー演算を集中させている間に、予備モジュールの金属結合部の微細な応力歪みを計測していた。


研二

「フィードバック完了。目標箇所は、チタン合金とカーボンナノチューブの複合材。MCU製作の応力は、0.005ニュートン/平方ミリメートル以下に抑えろ。正規の設計限界の1%未満だ。ナノシーラントの硬化時間も考慮しろ。溶接やリベットは絶対不可。純粋な分子結合のみで保持させる。」

理奈はMCU群に、超高精度レーザー切断システムと超音波溶着ヘッドを切り替えながら、**結合用アタッチメントの「製作」**を指示した。


MCU群は、「アウグストゥス」の資材庫から供給された特殊な形状記憶ポリマーとチタン合金の微細粒子を瞬時に取り込み、探査機2号機の船体表面に沿って、微細なラティス構造を遠隔で組み上げていく。これは、事前に設計された正規のドッキングポートではなく、その場で機体の材質と応力に合わせて「製作」される、唯一無二の非定型構造だった。


輝が、時間計測を行う。

「残り60秒。MCUのアタッチメント製作時間に、探査機2号機の管制システムがログを書き換える時間は含まれていないぞ。」

理奈は集中力を極限まで高めた。彼女の技術的本能は、量子センシングのログに現れるわずかな慣性の揺らぎを手動で打ち消すと同時に、MCU群のエネルギー消費を探査機2号機の許容電流値の閾値以下に抑え込んでいた。

「ラティス構造、99%。最終結合部に、ナノシーラントを層状に塗布開始。研二、分子結合率のフィードバック!」


研二

「フィードバック、正常。シーラントは複合材と分子レベルで結合中。あと5秒で初期硬化に入る。この初期硬化が完了すれば、理論的には探査機2号機の構造解析システムは、これを元々船体の一部として認識する。」

「残り30秒!」輝の声が、焦燥を帯びる。


理奈は、「アウグストゥス」のメイン推進システムを、MCUが製作した非定型アタッチメントに向けてドッキングアームを伸ばす操作に移る。アタッチメントの形状は非正規だが、その寸法公差は数マイクロメートル単位で制御されており、**「アウグストゥス」**側のドッキングアームと完璧に一致した。


ガチリ!

理奈の**「アウグストゥス」と探査機2号機の船体が、重く、論理に反する金属音を立てて、非正規な方法で完全に一体化する。それは、AIの論理が技術的な完全性から排除した「非効率な創造力」が、国家の最高機密を強引に転用**した瞬間だった。

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