第33章 意外な案
ざわつく会場の片隅に、まるで場違いであるかのように、4人の姿があった。
軍服姿のまま沈黙していたのは、大和艦長であった有馬中佐。砲術長の江島大尉、航海科の樫井中尉、機関科の木村兵曹。彼らはこの会議に、『参考出席』の名目で呼ばれたにすぎない。
しかし、有馬は静かに手を挙げた。
「……失礼ながら、今のご説明、我々には理解できぬことが多すぎる。『ホテル化』? 『テーマパーク』?」
江島が低く呻くように続ける。
「46サンチ砲の砲身の中に……客を通すというのか。あそこで、俺は……俺は戦友を焼かれた。骨さえも残らなかったのだ」
場に沈黙が落ちる。
数名が顔をしかめる中、文科省文化財保護課の職員が柔らかく口を挟んだ。
「江島様、お気持ちは痛いほど分かります。ですが、これは決して『愚弄』ではありません。次の世代に語り継ぐための、新しい記憶の形式だとお考えいただければ……」
「語り継ぐ? では、語らせていただこうか」
有馬の声は静かだったが、その場にいた誰もが、背筋を伸ばさずにはいられなかった。
「我々は死にに行った。あの艦で、『国の最後』を見届けに。だが、それが今や『収益事業』』のために砲塔を飾り、甲板を歩道にし、遺体の上に笑顔を咲かせるという。……本当に、それが語り継ぐということか?」
議場に重い空気が満ちた。ややあって、観光庁の楠田次長が苦しげに言葉を継ぐ。
「ご意見、厳粛に受け止めます。有馬様のお言葉は、次回の議論へ正式に議事録として反映いたします……。ただ、我々にも『時代』という制約がございます」
傍聴していた民間企業の代表たちは、互いに目配せを交わし、沈黙のままメモを取っていた。
会議はその後、形式的な検討事項へと移った。