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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン2
240/2254

第29章 江田島・幹部候補生学校 入校

江田島・幹部候補生学校 正門前


第0日目(赴任日)午前08:15


瀬戸内の朝は、凪いでいた。

音を吸い込むような静かな海が、戦後80年を経た江田島の時を包んでいた。

白い制服に身を包んだ幹部候補生たちの列。その中に、異質な影があった。


——有馬艦長(元・戦艦大和艦長)、江島砲術長、野中航海長、そして医務科長の佐藤軍医中尉。


いずれも、2026年現在の戸籍を持たぬ“特別技能参与員”という新設ポストで招かれた者たちである。


警務隊の曹長が、彼らを正門前で出迎えた。


「お待ちしておりました。海幕指令に基づき、本日より“戦略環境適応特設課程”にご参加いただきます。各自、IDバッジと指導教官の案内を受けてください」

有馬が頷く。


視線を横に向けると、正門の右手に刻まれた石碑が見えた。


『今やふねは無くとも、精神は受け継がる』

——旧海軍兵学校碑文


江島がぽつりと漏らした。

「……我々が育ったのも、まさにこの地だったな」

「そうだな。まさか、再びここに“教育される側”として戻る日が来ようとは」

そこへ、特設課程の主任教官・高槻一等海佐(戦略教育担当)が歩み寄る。

やや気さくな笑顔だが、その眼差しには一種の敬意と警戒が混在していた。


「諸官、ようこそ江田島へ。


本日からの4週間、あなた方には“過去を生きた知識”を、現代の文脈で再統合していただきます。

これは訓練でもあり、国家にとっての歴史的検証でもあります」

有馬が少しだけ口元を引き締めて答える。


「承知しております。我々が“現代”にとって必要とされるのならば、その要請に応えるのみです」

高槻が手元のタブレットを見ながら補足する。


「日課は0830から開始。初日は現代戦略概論と防衛白書の講読からです。

また、語学支援として英語・中国語・ロシア語の基礎講義を希望される場合は別途申請を——」

江島がすかさず割って入る。


「……時代は変わったが、初日からやることが山ほどあるのは同じだな」

高槻が少し笑って答える。


「違うのは、今の学生たちが“艦砲射撃”ではなく“ドローンと衛星画像”を使って作戦を考えるところです」

佐藤軍医がそっとつぶやいた。


「それでも……戦争で血を流すのは、最後は人間のはずだ。そこは、変わっていないと信じたい」


そして一同は、静かに校門をくぐった。

80年の時を経て、“かつて育てられた場所”が、再び彼らを受け入れる。

ただし今度は、次の世代に何を伝えるかを問われる側として


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