第10章 雪風の帰還と陸の邂逅
沖縄沖での激戦から数日後。米軍の反撃と本土空襲の激化が続く中、海上自衛隊と旧日本海軍の連携は、新たな段階へと進もうとしていた。海自艦隊司令・片倉大佐は、自らの士官を沖縄本島へ派遣し、陸軍との直接的な連携を強化する決断を下す。
「沖縄への上陸班には、情報幕僚の山名三尉を指名する。護衛は駆逐艦『雪風』に頼む。現地の陸軍第32軍司令官、牛島満大将との会見を実現し、情報の完全な共有と、今後の作戦における緊密な連携を確立してほしい」
片倉の指示に、山名三尉は緊張した面持ちで頷いた。未来から来た者が、過去の戦場へ足を踏み入れる。それは、彼らの存在意義を問う、危険な一歩でもあった。山名の護衛には、数名の精鋭隊員が選ばれた。
1945年4月13日、未明。漆黒の海を、陽炎のように滑る艦影があった。駆逐艦「雪風」。史実では多くの激戦を生き抜き、「奇跡の駆逐艦」と謳われたその艦は、現代の海自の精密な航海支援を受け、静かに沖縄本島へと接近していた。海自の艦艇が米軍のレーダー網を攪乱する中、雪風は海岸線に最も近い浅瀬へと艦首を向け、小型舟艇で山名らが上陸する。
波打ち際に足を踏み入れた山名の目に飛び込んできたのは、焼け焦げた木々、破壊された家屋、そして砲弾によって抉られた赤土の地面だった。遠くからは絶え間なく砲声が響き、時折、空を切り裂くような航空機の音が聞こえる。これが、76年前の日本の最前線。
第32軍の兵士が待ち構えており、山名たちは即座に地下壕へと案内された。複雑に入り組んだ通路を進むと、そこには薄暗い電灯の下、地図を広げて沈思する男がいた。第32軍司令官、牛島満大将。その顔には、激戦を指揮する者特有の疲労と、しかし揺るぎない覚悟が刻まれていた。
「ようこそ。まさか、海軍の、いや……」牛島は、山名の現代的な制服に一瞬戸惑いつつも、すぐに平静を取り戻した。「……未来の日本から来たという貴官らが、このような危険を冒して、我々の元へ来てくださるとは。驚きを禁じ得ない」
山名は背筋を伸ばし、敬礼した。「海上自衛隊情報幕僚、山名です。大和の艦上にて、片倉大佐より、貴軍との直接連携強化の任を受け参りました。我々がこれまで提供してきた情報は、今後も継続して送らせていただきますが、より緊密な協力のため、直接お目にかかりたかった次第です」
牛島は、椅子を勧めた。「貴官らが提供する『未来の情報』は、我々にとってまさに天啓だ。これまで手の内を読みきれなかった米軍の動きが、手に取るように分かるようになった。これにより、我々はこれまで以上の抵抗を続けている。感謝する」牛島はそう言いながら、机の上に広げられた最新の戦況図を示した。それは、海自のドローンが捉えた米軍の配置や、艦砲射撃の着弾点が詳細に記されたものだった。