第28章 「戦艦大和」の今後の処置
海上幕僚長・竹下海将が、静かに一枚の資料を開いた。
「次の議題に入ります。本日付で、防衛省および内閣官房合同による『特殊装備資産活用検討会議(仮称)』を設置します。
主目的は、“戦艦大和の運用的・象徴的・技術的資産価値を検討し、現代の安全保障環境において活用可能か否か”を、複合的に審議することです」
ざわめきはない。ただ、空気がわずかに引き締まった。
竹下海将は続ける。
「この会議には、戦略企画部、防衛装備庁、外務省総合外交政策局、国家安全保障局に加え、大和の乗員代表4名にも、正式な“作戦技術参与”として加わっていただきます」
その言葉に、一瞬だけ、有馬艦長が眉をひそめた。
「……しかし我々は、現代の艦隊戦略も通信体系も、核抑止の概念すら理解しておらぬ。“かつての海戦”の知識で意見しては、返って害となるのではないかと懸念しますが」
その言葉に対し、防衛研究所政策室長・栗原博士が身を乗り出した。
「そのご懸念は、すでに承知しております。有馬艦長以下4名には、来週より 『海上幕僚学校・特設戦略環境適応課程』 にご参加いただきます。期間は4週間、内容は以下の通りです」
スライドが映し出された。
【特別再教育課程|課目概要】
1.現代海洋戦略と安全保障環境
2.最新兵器・通信・電子戦理
3.国際法と軍事倫理(LOAC/IHL)
4.火器・艦載兵装・情報処理
5.歴史と記憶の戦略的活用
説明が終わると、江島元砲術長がふっと鼻で笑った。
「要するに、今どきの“戦争”ってのは、こっちが砲撃する前に、向こうのネット回線と情報網を先にぶっ壊すって話か……。そうなると、大和の46cm砲なんて、回す前に相手に先読みされてるかもしれんな」
栗原研究官が頷く。
「その通りです。だからこそ、その砲塔をどう意味づけ、どう使うか——“物理的火力”以上に、“象徴としての重さ”をどう演出するかが現代の安全保障に問われるのです」
海上幕僚長が静かに締めくくる。
「あなた方が座るその席は、単なる“過去の証人”としてではありません。
国家が、戦後80年にしてなお“国を守る覚悟の継承”を現代に問い直すための、歴史の証明者としての役割でもあるのです。