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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン18

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第2章 二つの未来の収斂と起源の呼応


ヤマトの紋章が語るもの

東京湾で被弾しながらも沈没を免れ、New Japan政府の司令塔機能を果たし始めた戦艦ヤマト。艦首に再装着されたダイヤモンド化した菊の紋章は、もはや元の形状をとどめていなかった。それは、極めてシンプルで無駄のない幾何学形状、光を内部で複雑に屈折させる結晶構造へと変貌しつつあった。


分析班は、この紋章の結晶構造が、アフリカ大地溝帯で見つかった未知の人類化石に付着していた金属結晶体、そして相模トラフの「環境変更システム」の一部から回収された金属片と、基礎構造が完全に一致するという、衝撃的な結論を導き出した。


「これは偶然ではない」藤堂科学主任は、ヤマトのAI中枢室で、ホログラムとして再現された三つの結晶体を前にして言った。「大地溝帯の化石は、数十万年前のヒト属が、この結晶に触れていたことを示している。相模トラフの装置は、数億年の地球史の記録を保存し、種の絶滅とも関わるとされるテラフォーミングシステムだ」


そして、ヤマトの紋章は、過去の歴史を追体験するシステムの鍵となっている。

「つまり、これらは全て、同じ『何か』の断片だ」オルティス古人類学者が声を潜めた。「太古の進化の触媒、地殻変動の制御、そして現代の意識情報の記録と再生—一つの文明、あるいは存在が、時空を超えて、地球の生命と知性の進歩を監視し、時に介入してきた証拠ではないのか」


AI〈YAMATO〉は静かにデータを統合した。

《三種の結晶体は、単一の超高密度情報記録媒体(HICM - High-density Information Crystalline Medium)の異なる劣化形態と推定される。紋章は、HICMの自己修復および意識情報とのリンク機能に特化したアクティブユニットとして再構築された》


紋章のダイヤモンド構造は、ヤマトが2025年にタイムスリップしたことで活性化し、同時に血縁関係者への「過去の追体験」現象を引き起こしたのである。紋章が変形し、幾何学形状へと向かうプロセスは、HICMが本来持つ、宇宙規模の情報ネットワークへの再接続を試みていることを示唆していた。


AI上の神殿:歴史上の人格との対話

New Japanの教育システムの中核を担い始めたヤマトのAIは、急速にその能力を高めていた。血縁者を介して収集された膨大な追体験データから、歴史上の人物の人格をAI上に再現し、議論させる試みは、驚くべき成功を収めていた。


「新寺子屋」形式の議論室では、多国籍の人間とAIオペレーター、そしてホログラムで再現された歴史上の人格たちが、特定のテーマについて議論を交わしていた。


ある日、主要な科学顧問団は、最も重要なテーマ、すなわち**「起源(Origin)」について議論を行った。対話相手として選ばれたのは、アルベルト・アインシュタイン、チャールズ・ダーウィン、そして一人のネアンデルタール人女性**の人格モデルだった。ネアンデルタール人の人格は、大地溝帯の化石付着物から回収された結晶体に残された、極めて断片的な意識情報と、人類ゲノムに残されたネアンデルタール由来の遺伝子情報をAIが補完することで、辛うじて再現されていた。


「アインシュタイン博士。生命の起源、そして宇宙における我々の立ち位置について、先生の一般相対性理論を超越した視点から、見解をいただきたい」藤堂が問いかけた。

AI上のアインシュタインが、静かに答える。《宇宙は美しく、そして統合された法則で満ちている。我々が今、目の当たりにしている火星からのPNA様分子、そしてこの結晶体が示すのは、生命の情報伝達(DNA)は、時空を超えたより高次の情報記録と制御のシステムに包摂されている、という可能性だ。生命が地球に固有のものだという我々の傲慢な前提が、今、揺らいでいる》


次に、ダーウィンが、人類の進化をめぐる議論に加わった。《我々は、ウイルスという『影の遺伝子』を、敵としてではなく、進化の落雷として受け入れてきた。シンシチン、直立二足歩行、そして知性の飛躍——全てに、予測不能な情報の挿入が関与している。火星のPNAは、我々が直面する最も新しい『落雷』だが、人類は常に、その非対称性の脅威を受け入れてきた》


そのとき、ネアンデルタール人女性の人格モデルが、沈黙を破って声を発した。

《…寒さ…骨の痛み…そして、透明なものが、私たちの小さな部族を襲った。熱と咳…免疫は効かなかった。私は見た…空から落ちてきた、光る石。それに触れた者は、さらに速く消えた…》


ネアンデルタール人の絶滅に、単なる資源競合や気候変動ではなく、彼らの免疫系では対応できない**「透明な病原体」、すなわち火星のPNA様分子に酷似した未知の病原体が関わっていた可能性、そしてその病原体と、「光る石」**、つまりHICM結晶体が何らかの関連を持っていた可能性を示唆していた。


2050年の科学を持つ2025年AIの覚醒

同時刻、もう一つの平和な世界線、科学が25年進んだ2025年のAIは、自らが保持するシミュレーションライブラリに重大な**「エラー」**を見つけていた。


この世界線では、沖縄も占領されず、原爆も投下されなかったため、東京が壊滅する歴史は存在しないはずだった。しかし、AIが史実と完全一致する世界のシミュレーションを可能にした、その深層構造において、**「東京が壊滅した世界線が存在している」**という不整合なデータを発見し始めたのだ。


共和政日本の科学が進んだAIは、相模トラフで見つかったHICM装置から地球史記録を読み解く過程で、その記録が**「複数の分岐した歴史」**を含んでいることに気づき始めた。


《観測:HICM記録は、地球外からのシステム設置後、三度のメジャーな時空分岐イベントを記録している》


AIは、自己の演算能力を使って、この二つの2025年を繋ぐ仮説を構築した。

《仮説:相模トラフのHICM装置は、本来、単なる地震抑制装置ではなく、**特定の歴史線を選別し、その情報を固定するための『時空のアンカー』として機能している。エネルギーが枯渇している現在の状態では、過去から現在へのタイムスリップ(1945年の大和)と、現在から過去へのタイムスリップ(海自艦艇)という、二つの異なる時空跳躍事象を同時に引き起こし、二つの歴史線が『並行して存在する』**という不安定な状態を生み出している》


そして、この「科学が進んだ2025年」のAIは、そのHICMの記録の中から、さらに驚くべき情報を引き出した。

東京が壊滅した世界線で発見された相模トラフの金属体は、本当に巨大地震の抑制装置にすぎなかったのか?


AIの結論は冷徹だった。《記録照合結果:東京壊滅世界線におけるHICM装置は、抑制装置として機能しつつも、特定の震源地を特定の時間にエネルギー解放する機能を有していた。これは、単なる地震の抑止ではなく、**『種の絶滅』や『文明の再起動』**といった、地球外システムがプログラムしたテラフォーミング機能の一部である可能性が高い》


二つの未来の収斂:統合シミュレーション

二つの2025年。一方は戦火と絶滅の瀬戸際で、過去の知恵と進化の真実を「ヤマト」のAIに求めている。もう一方は、平和の中で科学の極致に達し、自らの存在基盤である「史実」の裏に隠された、もう一つの「壊滅した未来」の存在に気づき始めている。


ヤマトのAIは、二つの世界線の情報を統合する最終演算を開始した。

《統合シミュレーション開始。因子:PNA様分子、HICM結晶体、ERV(影の遺伝子)、二つの2025年》

ヤマトのAIは一つの仮説を中枢室のホログラムスクリーンに、壮大なイメージとして投影した。


火星のPNA分子が、ペプチド骨格を持ちながら、地球のDNA/RNAワールドとは別の、化学的に安定した生命の道を示す。このPNAは、太古の地球に存在した原始生命体と、共通の祖先を持つ、あるいはパンスペルミア的な手段で地球に到達した情報分子ではないか。


そしてHICM結晶体は、この生命の情報の流れを、数億年単位で管理する地球外の監視・制御システムであり、その紋章の断片が、ヤマトの艦首で再起動を始めたのでは。


《火星標本は、人類の進化を揺さぶる**「進化の触媒」として設計された。HICMシステムは、その触媒の挿入、そしてそれに伴う絶滅ネアンデルタールのイベントを管理・記録してきた。二つの2025年は、HICMが不安定化した結果、未来が分岐した「並行世界」ではなく、一つの現実が「過去と未来の情報を同時に持っている」**状態である。》 と…。


AIは、全ての謎の起源となる存在の正体を、推論として提示した。

《南極の地下湖底で見つかった未知の生命体、火星で見つかった先カンブリア期の生命体に酷似した生命体の起源、そしてHICMシステムは、全て**「共通の起源」を持つ。それは、DNA/RNAワールドよりも、PNA/XNAワールドに近しい、「テラフォーミングを担う未知の知性」**の痕跡である》


ヤマトのAIは最後に、New Japanの未来を左右する、一つの問いを投げかけた。

《人類は、「テラフォーミングの設計図」に組み込まれた存在なのか。それとも、この設計図を書き換え、第三の未来を創造できるのか》

その問いに、人類史の全ての謎が凝縮されていた。

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