第27章 再任の儀 — 海幕第5会議室
■2026年3月2日/防衛省市ヶ谷庁舎・海上幕僚監部内
午前9時ちょうど。
防衛省本庁舎の地下階層にある「海上幕僚監部第5会議室」には、迷彩服と背広が混じり合う異様な空気が張り詰めていた。
中央の楕円形テーブルには、海上幕僚長を筆頭とする制服組幹部と、制服を着た帝国海軍出身の大和乗員たちが着席している。
その背後には、内閣官房国家安全保障局・内閣法制局・防衛装備庁・防衛研究所の高級官僚たちが、パソコンを並べて静かに書記と議事録の準備をしていた。
重い空気を切るように、会議冒頭、防衛大臣官房長の事務方が読み上げる。
「本日をもって、仮の身分から正式に令和8年2月付、特例制度に基づき、大和艦乗員各名に対し、防衛省設置法附則・時空的事象特殊対処枠に則り、“海上自衛隊員の特別附属任用”を発令いたします」
江島元砲術長——いまや階級無しの新任用隊員——は、目を細めた。
「つまり、俺たちは“また軍人”ってわけですか?」
それに答えたのは、海幕の人事担当・秋山1佐。
「はい。ただし、法令上“自衛官”であって“軍人”ではありません。任用区分としては“特別任用隊員”、階級は旧軍階級に準拠して“同等職能”に見合う3等海佐〜2等海尉に暫定換算されます」
有馬元艦長は黙って頷いた。
「軍服の形こそ違えど、再び“命令と責任の系”に属する者となった。それで、よろしい」
人事局次長がすかさず補足する。
「なお、年齢・戸籍・法的同一性の問題から、皆様の身分証には“生年月日不詳・記録上存在しない歴史的個体”という注記が入ります。
江島:「……幽霊みたいなもんだな」
秋山1佐は苦笑を浮かべた。
「公式には“戦没者記録に基づく現代存在としての例外扱い”です。極秘扱いですので、戸籍には復活しません。が、国家機関としてあなた方の存在を否定はいたしません