エピソード6 スピンオフ 近接戦闘と消耗戦の定着
午前8時30分。太陽は高く昇り、都市の温度は上昇していた。それは同時に、戦闘の激しさの指標でもあった。俺たちの観測拠点を狙ったブラッドレーの随伴歩兵による攻撃は、歩兵対歩兵の近接戦闘へと移行していた。
「デルタ小隊、持ちこたえろ!観測拠点を失えば、我々は盲目になる!40mm自動擲弾器、敵歩兵の頭上に制圧射撃を継続しろ!」
俺は無線で絶叫した。敵歩兵は、卓越した屋内クリアリング能力で、俺たちの防御陣地が置かれたビルの内部へ侵入しようと試みている。窓枠を飛び越え、階段を駆け上がり、廊下で激しい銃撃戦が展開されていた。
俺たちは、敵の機関砲を恐れていたが、この距離、この密集した建物の中では、ブラッドレーは直接的な火力支援ができない。戦いは、マン・ツー・マンの原始的な消耗戦へと引き戻されていた。
「予備機動部隊、動け!目標は、観測拠点ビルの地下から侵入した敵歩兵の退路を断つことだ!敵歩兵を孤立させろ!」
俺が投入した予備の機動部隊は、敵が最も重視しない下層階から奇襲をかけ、建物に侵入した敵歩兵を内側から包囲しようと試みた。これは、敵の情報優位を奪う試みに対し、人的資源を投じる、最も血生臭い戦術的決断だった。
近接戦闘は、わずか15分で決着がついた。
「デルタ小隊よりシャドウ・ワン。敵歩兵、撤退を開始!数名の負傷者を残し、ブラッドレー3番車の方向へ後退します!」
敵は、観測拠点を奪うという目標を達成できなかった。そして、人的損耗を避けるため、戦術的撤退を選んだ。
俺は、UAVからの映像で、ブラッドレー3番車が、負傷した数名の歩兵を回収しているのを確認した。
「全隊に聞け。この戦闘で、敵は人的リソースを失った。M1A2を失っただけでなく、ブラッドレーの歩兵をも消耗したのだ」
ブラッドレーの随伴歩兵は、M1A2の盾である。その盾が削られた今、敵の機動的な攻撃のリスクはさらに低下する。
ブラッドレー3番車は、もはや迂回ルートの探索を続けることはなかった。彼らは、主要路のM-KillとなったM1A2の防御陣地へと戻り、戦力を再編成しようとする。
「工兵チーム、聞け。ブラッドレーが撤退した左翼の迂回ルートに、即座に地雷と障害の設置を完了させろ。敵に二度とこのルートを使わせるな」
俺は、今回の交戦で得られた情報を、COPに即座に反映させた。敵は、回収か増援を待つ以外に、有効な手立てを失った。
「戦闘は消耗戦へと定着した。我々は、敵の次の動き、すなわち砲兵支援か、増援部隊の到着を待つ。それまでの間、持久と回復を徹底する」
この戦闘で、俺たちは数名の負傷者を出したが、敵の装甲優位を打ち破り、人的消耗を強いることに成功した。俺たちの計画、「鉄とコンクリートの罠」は、完全に機能している。
俺は、瓦礫の山から見える、動かなくなったM1A2の砲塔を睨んだ。この都市は、M1A2がその巨体と火力を無制限に展開できる場所ではない。彼らは、一歩進むたびに、人的資源と時間という、貴重な代償を支払わされるのだ。
俺たちの戦いは、続く。




