エピソード6 スピンオフ 局地対処と鉄の麻痺(Fix & Strike)
放たれた対戦車誘導弾は、迷うことなく目標へ向かった。俺は双眼鏡を固定したまま、息を詰めて見守る。
着弾!
一瞬の閃光の後、轟音が遅れて到達した。先頭を走るハンマー・ワンの右側面、駆動輪の付け根付近から、黒い煙と、油圧液が噴き出すのが見えた。車両はバランスを崩し、即座に停止する。キャタピラが地面を激しく叩き、空転する音が無線機のノイズを突き破って響いた。
「シャドウ・ツー! 命中!M-Kill(移動不能)を確認!ハンマー・ワンが主要路を塞いだ!」
俺は即座に指示を出す。「全隊聞け!フェーズC、局地対処(Fix & Strike)へ移行!火力集中!」
敵の車列は、俺たちの仕掛けた障害物の直前で、先頭車を失い、停止した。これは、完璧な「固定(Fix)」だ。ハンマー小隊は今、最も恐れるべき事態に陥っている。
ハンマー・ワンの乗員がハッチを開ける気配はない。車長は必死に通信しているだろう。
「ハンマー・ツー、動け!回避しろ!」そんな焦燥した声が聞こえてくるようだ。だが、後続のハンマー・ツー(副小隊長車)は、停止した先頭車に道を塞がれ、千鳥縦隊のオフセット位置から一歩も動けない。広い道路が、一瞬にして狭い罠に変わった。
「重火器チーム、火力集中!敵歩兵の頭を上げさせるな!ブラッドレーと戦車の連携を徹底的に断て!」
俺の指示で、重機関銃と40mm自動擲弾器が再び火を噴いた。瓦礫と粉塵が舞い上がり、ブラッドレーから降りた随伴歩兵は、身を隠すのが精一杯だ。彼らは、戦車に切り離された「盾」となった。
ここで敵は、「火力優位」で状況を打開しようとするだろう。停止したM1A2が、防御線を形成しているビル群へ向けて120mm主砲を向け始めたのが見えた。
「砲撃が来るぞ!対戦車チーム、位置を変えろ!予備の機動部隊、投入!」
俺は、事前に用意していた予備の機動歩兵小隊に指示を出す。彼らの役割は、敵が固定された瞬間に、側面から奇襲をかけることだ。
「アルファ小隊、低空を維持しろ!ブラッドレーの射界から逃れろ!目標は、ハンマー・ツー、そしてブラッドレーの側面!対戦車弾を叩き込め!」
予備小隊は、地を這うように狭い路地を走り抜け、ハンマー・ツーが全く警戒していない左側面へと回り込む。M1A2の砲塔は正面を向いたままだ。車長は、目の前の障害と、随伴歩兵の抑圧に気を取られ、側面の細い路地からの脅威を完全に看過していた。
彼らのCROWS(遠隔武装ステーション)の銃口は、正面の屋上を睨んでいる。まさか、地面の路地から攻撃が来るとは思っていないだろう。
「撃て!対戦車チーム、同時に撃て!」
再び閃光が走る。今回は路地からだ。低速のロケット弾がハンマー・ツーの履帯付近に命中。黒煙が二倍に膨れ上がった。
「ハンマー・ツー、M-Kill! 二両とも停止!」
俺は叫んだ。主要路は、完全に二つの鉄の棺桶に塞がれた。敵の車列は麻痺した。ブラッドレーIFVも、これ以上前進を試みることはできない。
「全隊、聞け!攻撃は一時停止!持久と回復(Sustain & Recover)のフェーズへ移行する。シャドウ・ワンよりカンパニーHQへ短報!」
俺は即座に、事前に用意していた「接触時短報テンプレ」を送信する。
「Time 06:05 / Grid YYY / Contact Armoured Column / Estimated strength 7 / M-Kill (2 tanks) / Casualties: none (friendly) / Immediate request: EOD/Recovery/Reserve / Over」
戦闘は終わっていない。だが、俺たちの戦術的目標である敵の機動の阻止と戦力の分断は達成された。
これから先は、持久戦だ。敵がEODや回収チームを送り込んでくるまでの間、この鉄の麻痺状態を維持しなければならない。そして、敵の増援に備え、防御陣形を強化する。
俺は再び双眼鏡を覗き込んだ。炎上こそしなかったが、主要路で立ち往生する二両のM1A2は、コンクリートの罠に嵌まった巨大な獣に見えた。