シーズン6 スピンオフ 接触(交戦開始直前)
午前6時。東の空がようやく赤く染まり始めた。俺は再び、最初の観測ポイントだったオフィスビルの屋上に戻った。双眼鏡を覗く。市外から都市へと続く主要路に、砂塵が舞い上がっているのが見えた。
「UAVチーム!ハンマー小隊、目視で確認!状況をCOPにアップデートしろ!」
通信担当が興奮した声で報告する。「UAVから接触!敵M1A2、4両。ブラッドレーIFV、3両。予想通り千鳥縦隊(Staggered Column)で進入中!隊列間隔は維持されています!」
フェーズ A:警戒・早期発見(Detect)は成功だ。敵は俺たちの防御ラインに、今、まさに触れようとしている。
「全隊聞け!フェーズB、遅滞・拒否(Delay & Deny)に移行する!敵の進入速度を落とせ!
俺は無線で指示を飛ばした。工兵が夜間に設置した障害と路線塞止が、敵の初動を遅らせるための最初の罠だ。
敵の先頭、ハンマー・ワン(M1A2小隊長車)が、瓦礫で意図的に塞がれた広い道路に差し掛かり、急減速したのが、UAVの映像越しに確認できた。
「ハッ、奴らは既にM-Killの可能性を警戒している。迅速な排除は試みず、慎重に工兵を待つだろう」
敵が拘束された。この遅滞の間に、対装甲チームが最終的な照準を完了する。
「対装甲チーム、シャドウ・ツー! 射界に捉えたか!?」
「シャドウ・ワン、捕捉!TOWチーム、三階窓。射撃用意完了!」
ここで重要なのは、タイミングだ。敵が障害を前にして、最も脆弱になる瞬間。それは、ブラッドレーの歩兵(Dismounts)が車外に降りて、障害の処理に向かう瞬間だ。
俺は、敵が民間施設を遮蔽に使い始めたのを見て、神経を尖らせた。M1A2は防御性の高い建物の陰に隠れ、ブラッドレーは民家の壁際を縫うように移動している。
「全隊に警告!CDE(付随被害軽減)とROE(交戦規定)の判断を最優先にしろ!敵が民間施設を拠点にした瞬間、火力使用の可否を瞬時に判断する必要がある!」
市街戦では、弾種・時間帯・照準の選択が、戦闘の結果だけでなく、その後の全てを決める。法務・人道・広報の要素が、常に俺の背後にある。
「シャドウ・ツー!ブラッドレーの随伴歩兵が展開中。対装甲チームはまだ待て!重火器、敵歩兵の頭上を抑圧射撃。ブラッドレーから引き剥がせ!」
40mm自動擲弾器が、瓦礫とコンクリートの塊に連射され、敵歩兵は再び物陰に張り付いた。盾が鉄の塊から切り離された。
今だ。敵が最も混乱し、そして怒りに駆られる瞬間だ。
UAVの映像が、最初のM1A2、ハンマー・ワンが障害を迂回しようと、わずかに車体を左に振った瞬間を捉えた。その動きは、彼らの駆動系(履帯とトランスミッション)を、屋上の対戦車チームの射線にさらしたことを意味する。
「シャドウ・ツー!ハンマー・ワンの駆動系を狙え!撃て!!」
俺の最終指示が、通信網を駆け巡る。
「Fire!」
轟音と閃光。空中で回転する対戦車誘導弾が、狙い澄まされた一点へと吸い込まれていく。都市の夜明けは、俺たちが仕掛けた「罠」が作動する、破壊の瞬間を迎えようとしていた。
俺の思考は、既に次のフェーズ、フェーズC:局地対処(Fix & Strike)へ移行していた。
「鉄の塊(M1A2)は来た。だが、この街は彼らの狩り場ではない。情報、障害、そして高所の対装甲火力。我々の計画は、既に作動した。この街は、鉄とコンクリートの罠だ。全隊、防御線を死守せよ!これより、戦闘を開始する!」
夜明けの街に、戦車の主砲とは違う、激しい交戦の音が響き渡った。