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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2353/2364

シーズン6 スピンオフ 持久とC2の命綱(C2・持久/支援・訓練)


午前5時。夜の帳がわずかに薄れ、都市の輪郭が灰色のシルエットで浮かび上がる。工兵による地雷と障害物の設置が終わり、俺たちの「罠」は物理的に完成した。ここからは、戦闘が長期化した際の持久力(Sustain)と、混乱の中でも機能し続けるC2(指揮統制)の確立が、唯一の命綱となる。


俺は、崩れた教会の地下、臨時のC2ポイントに戻った。薄暗い室内には、通信担当、情報担当、そして医療・後方支援担当が集まっている。


「通信担当、最終確認だ。敵は必ず我々の主要チャネルを電子妨害か傍受で叩いてくる。通信帯域の分散は完璧か?」

「シャドウ・ワン。主要チャネルに加え、バックアップチャネルを二系統確保。冗長性は保たれています。全小隊長に、主要チャネル断絶時の移行手順を再通達しました」


俺は頷いた。上層部との中隊〜連隊レベルのコントロールは維持しつつも、この市街戦では、即時ローカル権限を小隊長へ委譲することが必須だ。数秒の判断の遅れが、M1A2の主砲を浴びることにつながるからだ。


「よし。そして、改めて確認する。短文ルールの徹底だ」

俺は手に持った「接触時短報テンプレ」のフォーマットを見せた。


「長々と状況を説明する必要はない。『Time / Grid / Contact Type (armoured column) / Immediate request』。これだけでいい。そして、必ず復唱とリードバックを徹底しろ。短文でのC2運用訓練を、接触までの残り時間で反復させる」


混乱の中で、情報伝達が正確かつ迅速であること。それが、部隊が分解せず、単一の意志で戦い続けるための唯一のルールだ。


次に、戦いが始まる前に、戦いが終わった後のことを考える。持久戦だ。

「後方支援。MEDEVAC手配、救護班の配備場所を確認しろ。我々には、負傷者が出た際に即座にトリアージできる能力が必要だ。そして、最も重要なのはEOD/回収連携だ」


通信担当が、地図上にMEDEVACのヘリ着陸地点(LZ)候補を三箇所マーキングする。全て、敵の射線から外れた、隠蔽性の高い場所だ。


「特に、地雷によるM-Killが発生した場合、EODチームと回収(曳航)チームの連携が都市戦の死活問題になる。被弾後のEOD手順と、曳航ルートの選定を今一度シミュレーションしろ。負傷者がいなくても、車両を失えば戦力は半減する」


弾薬と燃料の前線補給ルートも、夜のうちに確保された。敵の侵攻軸から外れた、裏通りだ。都市防衛は、戦うことよりも、戦い続けるための準備が、遥かに多くのリソースを要求する。


夜明けまであとわずか。残された時間で、俺は最後のトレーニングを指示した。

「全チーム聞け。最後の訓練だ。歩兵+工兵+UAVの合成訓練を再度シミュレートしろ。対装甲チームの迅速配備、検出→報告→集中、この流れを最短時間で完了させろ」


俺は、各小隊長に無線で語りかけた。

「我々の弱点は、人的消耗と民間被害のリスクだ。しかし、敵の弱点は、情報と機動力だ。この二つを奪い、持久戦に持ち込めば、我々は勝てる。最後まで冷静に、CDE(付随被害軽減)の判断を忘れるな」


指揮官である俺の頭の中は、既に迫り来る戦車隊との戦闘シナリオで埋め尽くされていた。俺たちは、ただの守備隊ではない。この都市のコンクリートと鉄筋を武器に変えた、「鉄とコンクリートの罠」の守護者だ。そして、その罠が起動する瞬間が、刻一刻と近づいていた。

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