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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2341/2382

シーズン6 スピンオフ 市街地戦における戦車の苦闘


「ハンマー・ワンより全車。市街地戦の原則を再確認する。機動よりも観測優先、進入よりも交差点制圧優先だ。目を皿にして、一瞬たりとも気を抜くな」

俺のM1A2、ハンマー・ワンは、瓦礫が散乱する大通りをゆっくりと這っていた。遮蔽物のない砂漠とは違う。ここでは、戦車の装甲優位性が、まるで毒を盛られたように機能不全に陥る。原因は、四方八方から迫る視界の制限だ。


砲手から切迫した声が上がる。「左三時の角。民家の窓に動きあり。恐らくただの住民ですが、クリアしません」

「了解。ハンマー・ツー、その建物の側面に主砲を向けたまま前進。決して速度を上げるな。歩兵が建物内をクリアするまで待て」

俺たちは今、鋼鉄の棺桶に乗っているようなものだ。脅威は地上だけではない。何より恐ろしいのは、上層階や屋根上からの脅威だ。


「ハンマー・スリー、屋根上警戒。高高度脅威を常にチェックしろ。特に、あの巨大なオフィスビルの屋上だ。ジャベリンやコルネットのようなATGM(対戦車ミサイル)は、俺たちの脆弱な上面装甲を容易に貫通する」


側面を固めてくれているブラッドレーの歩兵小隊が、無線で状況を報告してくる。「ストライカー・ワンよりハンマー・ワン。左手の路地裏に不審なワイヤーを確認。おそらくIED(即席爆発装置)またはEFP(自己鍛造弾)の可能性」

「クソッ」俺は思わず舌打ちした。彼らの狙いは、俺たちの進路妨害と行動制限だ。ここで立ち止まれば、たちまち俺たちは固定された標的と化す。爆弾を処理するまで、俺たちは動けない。


最も神経を使うのは、交差点の通過だ。交差点は、敵がRPG系携行対戦車兵器を構えて建物や地下から一斉に奇襲をかける絶好のポイントとなる。

「セクションAは、この交差点を制圧する。セクションBは、左右の通りを監視し、敵の退路を断て。いいか、進入はまだだ。まずは砲身を向けたまま停止し、交差点に潜む全ての脅威を徹底的に洗い出せ」


「機動よりも観測優先」。それが市街地戦の鉄則だ。高速で機動すれば、狭い路地で旋回不能に陥ったり、予期せぬ攻撃を受けた際に退避困難になったりする。一歩進むごとに、数秒停止し、サーマルサイトと肉眼で、窓、ドア、屋根、地下の入り口、そして瓦礫の陰まで、執拗にスキャンし続ける。


「ハンマー・ツー、左側の建物をクリア。三階窓にRPGの痕跡なし」

「よし。ストライカー、交差点の制圧を許可する。歩兵を降ろして、左右の角をクリアさせろ」

俺は、一歩一歩、慎重に進む。この街は、エイブラムスにとって戦場ではなく、まるで巨大な罠そのものだった。頼れるのは、強固な装甲ではなく、慎重な観測と、歩兵との連携、そして俺たちの原則だけだ。

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