シーズン6 スピンオフ ドライバー視点
車長が「ハルダウン保持、右45度スイープ」と無線で落とす。私の体は即座に地形計算を始める。ハルダウンだ——胴体は遮蔽に残し、砲塔だけを露出させる位置を取らねばならない。私は視界窓と車外カメラの広角を切り替え、右側の砂丘列の高さと前方の隆起位置を照合する。ほんの数センチ、数度の差が砲塔の視認性を決める。
ティラーバーに両手を置き、両レバーを同角度でわずかに前へ倒す。ゆっくりと、一定のトルクで車体を寄せる。履帯が砂を掴む感覚、足元に伝わる低周波のうなり、誘導輪の反力が私に地盤の“強さ”を伝える。もし抵抗が急に増せばすぐに戻す。砂面での過度な掘削は致命的に車体を嵌める。私は小さな入力の連続で負荷を分散させる。
UAVのフレームが右前方の小さな点を示す。車長が「照準保持、三点越えたら撃つ」と言う。砲手の声が「レンジ600〜650」と入る。距離は射程内だ。私の役割は、砲手の指示する射角で安定したプラットフォームを維持することだ。砲塔の旋回やローダーの動作で車体の重心は変わる。私はそれに合わせてティラーで微調整を続ける。小さな振幅の入力で左右の駆動差を調整し、車体をその場に「固定」する感覚を作る。
目標が動き、砲塔が旋回する。砲塔の慣性でわずかな横流が車体に伝播する。私は即座にそれを吸収する。短い舵で対抗し、速度を1km/h単位で制御する。数値はDIDに出るが、実際の決定は手の感触と床からの振動で行う。急激な回転や加速は避ける。被弾のリスクが高い場面では、動きの予測不能性を低く保ち味方視界を最大化するのが良策だ。
「発射、ワンマーク」——小隊長の合図。砲撃の瞬間はいつも違うリズムで来る。砲口の閃光、爆発音、衝撃が車体を通じて伝わる。反動が伝わる前に足でブレーキの微圧を入れ、車体姿勢の乱れを最小化する。車体が跳ねると同時に私は即座に左右のレバーで小さな逆力を入れ、再び安定域へ戻す。反動後の復帰の速さが次弾の命中率に影響する。
着弾表示が来る。砲手が短く「影響、右0.6m」と報告する。私はそれを受けて微修正を行う。目標付近の地形が予期せぬ変位を示した場合は、ハルダウン位置を少しだけ変え、視界の中心を最適化する。これはセンチ単位の仕事だ。ドライバーとしての決定は粗くはない。小さな修正の積み重ねが戦術的優位を作る。
戦場は動く。左方から別の熱源が上がると、私は車列の編成を即座に保ちながら位置を調整する。二番車が左をカバーする指示が出ると、私は列幅をわずかに縮め、前方車との安全距離を保つ。四両編成では車間の同期が命だ。BFTの点と自分の視認を突合し、次の一手を先読みする。タイミングを失えば視界が重なり、友誤や射界交差を生む。
砂嵐の兆候が出る。風速の数値が上昇し、車外カメラのコントラストが落ちてくる。インジケータが微小な粒子濃度上昇を示し、吸気フィルタの負圧が少し上がる。私は即座にDIDの補機表示をチェックし、車長へ「視界徐々に低下、フィルタ負圧上昇」と短報を入れる。車長は「継続」と言ったが、私は速度を落とし、視界の喪失を最小化するための姿勢を取る。視界が落ちれば砲手の命中精度も落ちる。私の役目はその変化を可能な限り緩慢にすることだ。
弾薬消費が進み、砲手から「残弾半分」との短報が入る。私は燃料と同じように弾薬の消費が戦術に与える影響を計算する。四両の中で我が車の役割は接近と観測の保持だ。消耗が進めば、私は火力支援から位置の維持へフェーズを切り替える。車長が「継続」と指示する限り、私は車体を最適に保つ。だが補給の見込みと撤退ラインは常に頭の隅に置く。
被弾の音が近い。センサが衝撃を拾い、アラートが点く。私の第一動作は姿勢の確保と車列の安定化だ。揺れが伝わると、私は即座に左右レバーで反力を入れ、車体を横滑りさせないよう抑える。被弾の方位が送られると、私は即座に反対側へ微移動して被害の最小化を図る。退避の指示が出れば、ブレーキを踏んで後退域を取り、車列の流れを崩さないようにする。
交戦中の長い繰り返しの中で、体感温度は上がる。エンジンの熱がキャビンにまで届き、視界窓の周囲は砂の粒で薄く覆われる。私は定期的に視界の補助表示を切り替え、サーマルと可視の最適配合を作る。視覚情報が不安定なときは、私はより計器を信じる。計器は不確実性のレベルを示してくれる。私の判断はそれと自分の経験の比重で決まる。
弾着の報告が続き、敵の動きが止まると、車長は「Hold、観測」と命じる。私は車体を停止させ、駐車ブレーキを軽く入れて姿勢を固定する。車列のホールドでは、再編成や被害確認の時間が発生する。私の仕事はここでも同じだ――すぐに動けるように車体を最良の状態で保つ。車長の短報に備え、私は常に両手をティラーに置いたまま待つ。
戦闘は瞬間の積み重ねだ。砲手の弾着に合わせて微修正を続け、ローダーの動きに合わせて揺れを吸収し、四両の編成を常に最良の相対位置に保つ。私は数値と感触を融合して動く。車列の中の私の役割は目立たないが、正確であることが全てを左右する。砂の匂い、金属の振動、計器の点滅――それらが合図だ。私はそれらを読み、次の一手を物理に変えていく




