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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17

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第99章 Ω-TERRA/セッション#52《二足歩行の始まり》



〔視界が砂色に染まる。熱。空気は重く、遠くの地平がゆらめいている。〕


野田「……うわ、息が苦しい。空気、薄い?」


副部長「酸素濃度18%。当時の大気組成に合わせてある。肺が慣れるまで数分。」


亀田「そんな説明いらないわよ。汗が止まらない……。あたし溶けるかも。」


富沢「これ、本当に“過去”なんですか? 映像じゃなくて。」


部長「Ω-TERRAは再現ではなく再演算だ。――見ろ、あの影。」


〔丘の向こう、灌木の間を一頭のサヘラントロプスがよろめきながら歩いている。〕


重松「脚の軸……外側へ傾いている。膝関節の角度、120度。完全な直立じゃない。」

彼の声は観察記録のように冷静だ。

「けど骨盤が短い。脊柱のS字も始まっている。明確に“立とうとしている”。」


山本「でも、なんで? 樹の上のほうが安全でしょ?」


副部長「森が減った。地溝帯の乾燥化で樹冠が分断された。枝伝いに移動できないんだ。」


富沢「つまり、立たされた……ってことか。」


野田(じっと見つめながら)

「立ちたかったのかもしれませんよ。見たいから、って。」


〔サヘラントロプスが背を伸ばす。陽光が頭蓋を照らす。目がまっすぐ前を向く。〕


亀田「目、合った……ような気がした。」


Astra-Core「観測者野田、脳波α帯域低下。視覚共鳴開始。

対象個体の視線方向、観測者群へ向けられています。」


部長「視線が通った……700万年を隔てて。」


富沢「やめてください、そんな言い方。ゾワゾワする。」


〔砂煙の向こうから、もう一頭が現れる。子を抱いた雌だ。彼女は片腕で枝を掴み、もう片方の腕で子を支えながら、地面に片足をつける。〕


野田「……片足。」


重松「平衡感覚、前庭系の再編だ。立とうとする“神経構造”が、ここで生まれた。」


部長「行動だけじゃない。認知が進化している。“姿勢の維持”と“他者を見る”は、同じ神経回路で制御される。」


山本「立つことが、“見る”こと……?」


副部長「そう。視覚の水平化が、社会的認知を導いた。互いを“目で知る”行動――その最初の瞬間だ。」


〔風が吹き抜け、群れがざわめく。雌が子を地面に置く。子はよろめきながらも、両手を上げて立とうとする。〕


富沢「……かわいい。って、思ってしまうの、変?」


野田「変じゃないです。多分、私たちもこの“立つ姿”を、どこかで覚えてる。」


亀田「DNAに“立ち上がる記憶”があるって言いたいわけ?」


部長「正確には、“神経構造の再利用”だな。進化は形の記憶を再演する。Ω-TERRAはそれを引き出している。」


Astra-Core「観測者群、心拍同期率上昇中。神経共振指数0.48。

対象個体、観測者方向に発声――。」


〔砂の上で、雄が喉を震わせ、低く、短い声を発する。〕


重松「音程が一定……共鳴音か。コミュニケーションの原型。」


野田「挨拶、かもしれません。」


富沢「人類最初の“おはよう”ってわけ?」


亀田「笑わせないで。――でも、なんか本当にそう聞こえる。」


〔太陽が傾く。彼らは影を長く伸ばし、群れで移動を始める。歩幅は小さいが、確かにリズムがある。〕


部長「歩行だ。完全な直立ではないが、膝が前へ出ている。」


副部長「重心移動が連続してる。もう“跳ねる猿”じゃない。“進むヒト”だ。」


野田(息をのむ)

「世界が、彼らの足跡で“前”に進み始めたんですね。」


Astra-Core「観測データ保存完了。サヘラントロプス個体群、行動記録を神経転写へ移行。

観測者群の視覚野活動、同位相領域に記録。」


亀田「転写って……まさか、夢に出るやつ?」


富沢「また寝言で『立つ…立つ…』って言い出すかもね。」


野田(小さく笑いながら)

「いいですよ。もし夢で立てたら、きっと嬉しいですから。」


〔遠く、夕陽の中で群れが沈む。

その影が、未来の人類の影と重なっていく。〕


部長「記録終了。――これが、私たちの最初の一歩だ。」


Astra-Core「セッション#52、第一段階終了。

記録名:〈立つことの発見〉。次段階:アウストラロピテクス環境への遷移準備。」


〔風が止む。世界が薄れる。

だが野田の視界には、まだあの幼体の姿が残っていた。

両手を上げて、空を掴むように立つ――その姿が

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