第23章 中国海警局所属の警備艇
《注意喚起。右舷前方に艦影——距離およそ11海里。中国海警局所属と見られる警備艇、針路を変えず接近中。IFF応答なし。周波数未確認。現在、通信呼びかけ中》
艦内に緊張が走る。2026年2月21日 午後3時15分/宮古島沖 約35海里
《注意喚起。右舷前方に艦影——距離およそ11海里。中国海警局所属と見られる警備艇、針路を変えず接近中。IFF応答なし。現在、通信呼びかけ中》
「来たか……」
竹中二佐が、艦橋前面の状況モニターを睨みつける。
艦内に緊張が走った。艦橋に集まる大和乗員たちの間にも、ざわめきが生まれる。副長の森下中佐が、双眼鏡で視線を凝らした。
「まるで昔の通商破壊戦……いや、違うな。これは“言葉で撃つ戦争”だ」
「艦の腹を見せもせず、何を考えとるのかわからん……」
砲術長だった江島中尉が唸るように言った。「昭和20年の敵艦なら、煙突の色で正体が見えた。いまは電波一つで偽装する時代か……」
通信室では、斎藤三尉が報告を続ける。
「中国側からの通信、“航行理由と所属の明示を求む”との繰り返しです。こちらは電子的に無応答。AISはジャミング中です」
「撃つつもりは、ないのか」
機関科の鶴田一曹が思わず口を開いた。「……戦場ってのは、こんなにも静かなもんなんですか」
「静かだからこそ、危険なんです」
永田三佐が言った。「いま目の前で展開しているのは、“戦争の準備としての外交”です。発砲する必要がない。挑発と示威行動、それ自体が武力行使と同義の時代なんです」