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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17

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基礎講義 日本弧の誕生 ― 大陸が裂け、島が生まれた



リョウ:

先生、前の回で“日本の素材”がアジア大陸にぶつかったって話がありましたよね。

それで地殻が押し付けられて、付加体ができて……。

でも、どうしてそれが“島”になるんですか?

ぶつかるなら、大陸にくっついたままじゃないんですか?


佐伯教授:

いい視点だね。

確かに、最初は完全に大陸の一部だった。

でも、地球はいつも「押す」だけじゃなく、「引く」こともする。

およそ2億年前――アジア大陸の縁で、地球は**裂けリフティング**をつくり始めた。

まるで布を両手で引き裂くようにね。


リョウ:

引き裂く……?

それって、大陸が割れていくってことですか?


佐伯教授:

そうだ。

地球のプレートは、ただ並んで動くだけじゃない。

大陸の下に沈み込む海洋プレート――このときはイザナギプレートと呼ばれる――が北西に向かって押し寄せ、

大陸の縁が引っ張られるように反り返っていく。

この「たわみ」が進むと、大陸の端が少しずつ海側に離れ始める。

それが、“島弧(archipelago)”の始まりだ。


リョウ:

あっ……だから「日本弧」って言うんですね。

プレートの動きで、陸の端が弓なりにそっくり返った?


佐伯教授:

その通り。

北から見ると、九州から北海道まで、きれいに弓のような形をしているだろう?

あれは偶然じゃない。

2億年前のこの“引き裂き”の記録が、いまの日本列島の曲線なんだ。


リョウ:

じゃあ、日本が大陸から離れ始めたのはそのときですか?


佐伯教授:

正確には、完全に離れるのはもっと後――だいたい1億5千万年前ごろ。

でも2億年前から地殻の動きが始まり、

火山帯が活発になって「背弧盆地せいこぼんち」ができ始めた。

つまり、大陸と海洋プレートの“境界線”が、はっきりしてきた時期だ。


リョウ:

火山が多くなったのも、このころですか?


佐伯教授:

うん。

沈み込むイザナギプレートの上に、溶けたマグマが上がってくる。

火山島が連なり、そこに堆積物が積もり、また沈んでいく。

火と水の往復運動が、まるで心臓の鼓動のように続いていた。

その“鼓動”が今も、日本の地震や噴火のリズムとして残っているんだ。


リョウ:

……地球が生きてる、って感覚が少しわかる気がします。

でも、大陸が割れていくって、どんなスピードなんですか?


佐伯教授:

だいたい、1年に数センチ。

人間の爪が伸びるより少し遅いくらい。

でもね――1億年続けば、2,000km以上も離れる。

いまの日本海の広がりがちょうどその証拠だ。

海は時間でできた地図なんだよ。


リョウ:

すごい……。

じゃあ、その間に日本はどういう姿になっていったんですか?


佐伯教授:

最初は、アジア大陸の縁に並んだ火山列島。

次に、その背後の地殻が沈み込みによって薄くなり、

海水が入り込んで“浅い内海”ができた。

それがだんだん広がって、

やがて「日本海」へと変わっていく。

つまり――海が生まれたから、日本は島になったんだ。


リョウ:

海が生まれた……。

なんか、地球が息を吸い込んだ瞬間みたいですね。


佐伯教授:

まさにそう。

アジア大陸という巨大な肺が、プレートの呼吸で膨らみ、

日本列島という“呼気の島”を生んだ。

火山の列、地震の線、深い海溝――

それらは地球の“呼吸音”なんだ。


リョウ:

じゃあ、地震も火山も、

日本が“生きている”証拠なんですね。


佐伯教授:

その通りだ。

私たちは、動く大地の上で暮らしている。

動くということは、壊れることも、再生することもあるということ。

それがこの国の地形の宿命でもあり、美しさでもある。


リョウ:

……日本の山や谷や温泉も、全部その延長なんですね。

地球の呼吸の跡、って考えると、少し怖いけど、ちょっと感動します。


佐伯教授:

怖さと美しさは、同じ場所から生まれる。

火山が噴けば破壊をもたらすが、

その灰は肥沃な大地を生み、生命を育てる。

地震が山を崩しても、その断層面が地下水を導く。

地球の動きは、いつも創造と破壊を同時に運ぶんだ。


リョウ:

……地球って、止まることがないんですね。

“今の日本”も、まだ完成してない。


佐伯教授:

そう。

プレートは今も動き続けている。

日本列島は“進行形の地形”だ。

いずれまた形を変え、

数千万年後には、今とはまったく違う場所にあるだろう。

私たちは、その途中に生まれただけの存在なんだ。


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