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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2313/2396

基礎講義 パンゲア大陸時代 ― 「日本の骨格」が大陸に接合するまで



(約2億5千万年前〜2億年前)


リョウ:

先生、前に聞いた話だと、日本の“素材”は南極の近くから出発して、

何億年もかけて北上したって言ってましたよね。

それがついに、アジアにぶつかるのがこの時代ですか?


佐伯教授:

その通り。

およそ2億5千万年前、地球の陸地はすべてつながって、

パンゲア大陸という巨大な“一枚岩”になっていた。

地球儀でいえば、今のアフリカも南アメリカもユーラシアも、

ぜんぶくっついていたんだ。


リョウ:

すごい……。

じゃあ日本も、もうその中にあったんですか?


佐伯教授:

まだ“入り口”に立ったところだ。

日本の原型――秩父帯や三波川帯と呼ばれる海底の堆積岩たちは、

ゴンドワナ大陸から切り離され、長い航海を経て、

ちょうど今の中国南部、広東省から福建省あたりの海岸にたどり着いた。

そこが、パンゲアの東の端――アジアの縁だった。


リョウ:

ということは、今の日本列島の岩石って、

もともとは“漂流してきた島”だったんですか?


佐伯教授:

まさにその通り。

海の底で生まれた火山島やサンゴ礁の断片が、

海洋プレートの上に乗って北へ運ばれ、

最終的にアジア大陸の端に“押し付けられた”。

それが「付加体ふかたい」――日本列島の土台だ。


リョウ:

押し付けられるって……どんな感じなんですか?

ぶつかるだけじゃなくて、めり込む?


佐伯教授:

いい表現だ。

実際に、海洋プレートは沈み込みながら、

その上に乗った堆積物や火山島をめり込ませていった。

それらは押しつぶされて、しわのように重なり、

やがて固まって「変成岩」や「花崗岩」になった。

つまり、地球が自分で自分を縫い合わせていたんだ。


リョウ:

地球が縫う……。

糸がプレートで、針が火山活動みたいな感じですね。


佐伯教授:

うん。

その縫い目のひとつが、飛騨帯や三郡帯だ。

深く沈んだ部分では高温高圧で岩石が変化し、

表層部では海底の泥が固まって「秩父帯」になる。

それぞれの帯が、日本の“地質の年輪”なんだ。


リョウ:

なるほど……。

でもそのころ、地球全体では何が起きていたんですか?

パンゲアって、安定していたんですか?


佐伯教授:

いや、むしろ不安定の極みだった。

陸が一つに固まると、地球の熱が逃げにくくなる。

そのため火山活動が激しくなり、

特にシベリアでは、今のアメリカほどの面積が一気に噴火した。

それがシベリア・トラップと呼ばれる大火山活動だ。

地球が「息苦しくなって」暴発したんだ。


リョウ:

……そのせいで生き物が絶滅したんですよね?

ペルム紀の大量絶滅。


佐伯教授:

そう、まさにその時期。

海の生物の九割、陸の七割が姿を消した。

けれど、その混乱の中でも、

大陸の縁では新しい生命の居場所が生まれていた。

日本の原型がくっついたのも、その“縁”だ。

破壊の隣に、創造がある。

それが地球の常だ。


リョウ:

……なるほど。

日本の岩たちは、地球の“再生期”にできたんですね。

まるで、地球が新しい皮膚をつくっていたみたいだ。


佐伯教授:

いい感覚だ。

そう、地球は古い皮膚を剥ぎ取り、新しい層を貼りつけていく。

パンゲアの縁でその作業を繰り返した結果、

**東アジアの外縁に「日本の骨格」**が形づくられた。

それが後に隆起して、列島の山脈の芯になるんだ。


リョウ:

ということは、このころの日本はまだ海の底?

それとも、もう地上に出てたんですか?


佐伯教授:

ほとんどは浅い海か湿地だ。

でもところどころ、火山島が顔を出していた。

今で言えば、台湾の東や沖縄トラフあたりの地形に近い。

陸と海の境目がゆらいでいた時代だね。


リョウ:

地球って、ずっと動いてるんですね。

なんだか、人間が“国境”って言ってるのが急に小さく感じます。


佐伯教授:

そうだろう。

数億年前のスケールで見れば、

国境も山脈も、ただの“波の一瞬の形”にすぎない。

日本列島も、まだその波の途中なんだ。

アジアにくっついた今も、またいつか離れていく。


リョウ:

え……また離れるんですか?


佐伯教授:

そう。

地球は静止しない。

パンゲアが崩れ始めたのと同じように、

この時期のアジア大陸の端も、少しずつ引き裂かれ始めていた。

それが次の時代――**「日本弧の誕生」**だ。

火山が並び、海が生まれ、列島が独立していく。


リョウ:

いよいよ、“日本”になるんですね。


佐伯教授:

ああ。

南極の海底から始まった旅が、

ここでひとまずの終着を迎える。

だが、終わりは次の始まりでもある。

地球はその“呼吸”を止めない。

列島は、これから大陸から引き離されていくんだ。

――そして、海が生まれる。


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