表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2312/2364

基礎講義 原始大陸時代 ― 日本の“素材”は南半球の海辺にあった




リョウ:

先生、日本列島って、いつごろ「できた」って言えるんですか?

いつから“日本”なんでしょう。


佐伯教授:

いい質問だね。

でもね――最初から「列島」なんて形は、どこにもなかったんだ。

始まりは、今の日本の土地が「地球のどこにいたか」という話になる。

5億年前、場所は南半球だった。


リョウ:

南半球? 日本が?

それって、オーストラリアの近くとかですか?


佐伯教授:

その通り。

当時の地球にはまだ二つの大陸しかなかった。

北にローラシア大陸、南にゴンドワナ大陸。

日本列島を作る“素材”――つまり今の地殻のもとになった岩たちは、

そのゴンドワナ大陸の北の端、

ちょうどオーストラリアの南東あたり、

南極を見上げるような冷たい海辺にあったんだ。


リョウ:

え、じゃあ日本のもとって、南極の近くの泥とか岩だったってことですか?


佐伯教授:

そうだよ。

想像してごらん。

氷に縁どられた南の海。

その海底では、火山灰やサンゴのかけら、海底の泥が、

大陸の端に押し付けられるように積み重なっていく。

その積み重ねが、後に「日本の骨格」になる。

地球の歴史で言えば――それは日本列島の胎児期だ。


リョウ:

“胎児期”……。

じゃあ、まだ海の底で形もなかったんですね。


佐伯教授:

そう。

今で言う「秩父帯」や「三郡帯」と呼ばれる地質帯が、

このとき海の底の堆積物として生まれた。

海洋プレートが沈み込む場所――

いわば「地球のコンベアの終点」だ。

その端で、泥と火山灰が押し寄せ、溶け、変わっていった。


リョウ:

その岩たちは、どうやって今の日本のところまで来たんですか?


佐伯教授:

そこが面白い。

この“母岩たち”は、ゴンドワナ大陸に乗ったまま、

ゆっくり、ゆっくり北上を始める。

1年にたった3〜5センチ。

でも2億年以上かけて、南極の近くから赤道を越え、

今の中国南部のあたりまで旅をするんだ。


リョウ:

そんなに動くんですか、大陸って……。

スピードで言ったら、爪が伸びるくらい?


佐伯教授:

そのくらいだ。

でも、それが何千万年も続けば、地球の姿が変わる。

ゆっくりとした“呼吸”のようなものさ。

地球の肺が膨らんで、しぼんで、

そのたびに海と陸の形が変わっていく。


リョウ:

じゃあ、日本の“元”は南の海から運ばれてきたんですね。


佐伯教授:

そう。

岩石が、プレートという巨大な船に乗って。

途中、火山が噴いて、新しい島が生まれ、

サンゴ礁ができては沈み、また積もっていく。

それが“付加体”という地質をつくり、

いくつもの層が縫い合わされるように成長していった。


リョウ:

なんか、縫い物みたいですね。

糸が少しずつ重なって、最後に布になる。


佐伯教授:

うまい比喩だ。

その布こそが、のちの「日本列島の地質帯」だ。

縫い目は深く、色も違う。

だから日本の山や川は多様で、地質も複雑なんだ。

それは地球が何億年もかけて“縫い続けた布”なんだよ。


リョウ:

5億年前の地球って、どんな感じだったんですか?

まだ恐竜とかいないですよね。


佐伯教授:

いない。

まだ海の時代だ。

海の底では三葉虫やウミサソリ、サンゴ、

そして殻を持つ最初の動物たちが栄えていた。

陸地にはやっとコケや原始植物が顔を出したくらい。

日本の岩たちは、その時代の海底の記憶を今も残している。


リョウ:

……じゃあ、私たちが歩いている地面の下って、

もとは南極の海の底の泥、ってことですか?


佐伯教授:

その通り。

君の足元にある石は、

5億年前の南の海の砂やサンゴの名残だ。

つまり、君は太古の海の上に立っているんだ。

それが日本の本当の始まりだよ。


リョウ:

……地球って、想像よりずっと長く、ずっと生きてるんですね。

何億年もかけて、一枚の大地を縫い上げてきた。


佐伯教授:

そう。

地球は、ゆっくりだが確実に形を変える。

日本列島の“誕生”とは、

その縫い目が少しずつ集まり、

南の海の泥が、北の陸にたどり着くまでの物語なんだ。

まるで、長い夢のようにね。


リョウ:

夢……。

じゃあ次の夢は、

その岩たちがアジアにぶつかるところ、ですね?


佐伯教授:

ああ、それが次の章、「パンゲア時代」だ。

南からやって来た日本の素材が、アジア大陸に“衝突”する。

その瞬間から、地球は新しい息を吸い込み始める。

――列島の形が、そこで初めて“芽吹く”んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ