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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン17
2309/2396

第94章 《氷と獣 ― 哺乳類の黎明》



絶対年代:6600万年前〜現在(古第三紀〜第四紀)

24時間換算:19:00–21:00


Scene 1 19:00–19:20(約6500万年前)/灰の夜


Ω-TERRAの視界に広がるのは、灰色の世界だった。

空はまだ塵に覆われ、太陽はぼんやりとしか見えない。

しかし地表には、微かな動きがあった。

倒木の陰、わずか20センチの影――それが、最初の夜の支配者、哺乳類だった。


チサ:「温度−10℃、光量1/5。こんな環境でも、彼らは動いてる。」


タッキー:「体温維持、平均38℃。恒温性が完全に機能してる。」


夏樹:「寒いのに、毛皮があたたかそう……。」


スノーレン:「熱を保持する構造が進化の中心。――夜が生命を変えた。」


圭太:「恐竜の時代が光の支配なら、これは“暗闇の文明”だな。」


灰の夜に、獣の息が白く浮かぶ。

それが、新しい時代の最初の呼吸だった。


Scene 2 19:20–19:40(約5000万年前)/大陸の衝突


視点が南方へ移る。

巨大な陸塊――インド亜大陸が、アジアに迫っていた。

速度は1年に5cm。だが、地球にとっては稲妻のような衝突だった。


タッキー:「衝突開始。地殻変動波、波高5000m級。」


スノーレン:「プレート収束速度5cm/年。ヒマラヤ造山帯形成。」


チサ:「海底の石灰岩が持ち上がって、山になる。海が空を押し上げるなんて……。」


夏樹:「あの稜線、まだ“生まれたての傷”みたい。」


圭太:「地球が隆起する音がする……。呼吸の音だ。」

ヒマラヤの雪が太陽を反射し、風がアジア全域に新しい気候を運ぶ。

その結果、季節風が誕生し、雨季と乾季が世界のリズムを作った。

――地球が、再び脈打ち始めた。


Scene 3 19:40–20:00(約3000万年前)/獣たちの惑星


Ω-TERRAが緑の大地を映す。

草原、森、川――どこにも命があふれている。

象、馬、サイ、クジラ。すべてが哺乳類の姿をしていた。


スノーレン:「哺乳類の多様化、ピークに達す。

 知覚構造が複雑化――視覚・嗅覚・社会行動の分化。」


チサ:「彼らは“感じる力”で生きてる。力じゃなく、記憶と感情で。」


夏樹:「鳴き声が会話みたい。愛情とか、仲間とか、そういう響きがある。」


タッキー:「大脳新皮質の拡張を確認。――学習機能が飛躍。」


圭太:「“生き延びる”から、“生きる”に変わったんだな。」

空には渡り鳥、海にはクジラ、陸には群れをなす獣。

地球全体が、哺乳類の呼吸音で満ちていた。


Scene 4 20:00–20:30(約260万年前)/氷の来訪


風景が一変する。

北半球が白く染まり、氷床がゆっくりと拡がっていく。

氷期の到来だった。

平均気温は−15℃。しかし、それは終わりではなく――脈動だった。


スノーレン:「陸が呼吸を始め、気候が脈打つ。」


チサ:「氷と海が交互に息をしてる。地球全体が肺みたい。」


タッキー:「氷期周期、約10万年。軌道離心率0.0167。

 ミランコビッチ・サイクルと完全一致。」


圭太:「自然が“時間”を繰り返す仕組みを持ってるんだな。」


夏樹:「冷たさの中にも生命が残ってる。

 氷の下で、草が芽を出す音がする。」

氷が溶け、また張り、

気候は呼吸のようにリズムを刻み続けた。

その周期が、のちに人類の季節感を生み出すことになる。


Scene 5 20:30–21:00(現代)/記憶する地球


Ω-TERRAのカメラが現代の地球を映す。

氷河は後退し、都市の灯が夜空を染める。

だがその光の下には、いまもかつての氷の脈が流れている。


スノーレン:「平均気温+1.2℃。

 氷期後の過渡状態、気候安定域を逸脱。」


チサ:「海と陸のバランスが生命の鼓動を保つ。

 でも、人間はそのリズムを速めすぎてる。」


圭太:「俺たちは、地球の呼吸の“拍子”を変えてしまったのか。」


夏樹:「でも、この星はまだ歌ってる。

 風も、波も、動物たちの声も……全部、まだ生きてる。」


タッキー:「観測終了――全時代データ統合完了。」


スノーレン:「総括:進化とは、記憶の層構造。

 氷も獣も、人間も、その一部にすぎない。」


チサ:「呼吸がある限り、地球は生きてる。

 だから私たちは、見届けなきゃね。」

画面に、青い星がゆっくりと回る。

その大気の中には――かつて氷を溶かした獣たちの息が、

今も微かに混ざっていた。


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